六本木暗黒時代、PR Tableの危機を救ったファイナンス──創業3期目

「ポスト2020の日本社会にハートのある技術をインストールする」を掲げるPR Table社。2018年には大規模PRカンファレンスを成功させ、次なる道を歩む中、代表取締役の大堀航/大堀海兄弟、最初期メンバーで取締役の菅原弘暁が軌跡を振り返ります。綱渡りの第2期を終え、成長痛と反省の第3期へ。

「だめだった、ごめんな」……はじめて聞いた、航の涙声

▲糸島(福岡市)の浜辺にて。地方に本格進出する日はやってくるのだろうか

第2期の終わりに、伸び悩む業績などから起きた「空気」を変えるべくオフィスの移転を決断したPR Table社。渋谷から六本木に移り、増床はしたものも、当初は「人員の割には広すぎる状態」が続きます。

一方で、営業面では移転後の年明け1月、2月からは受注件数にも好転の兆しが見えてきました。この頃、菅原はセミナー登壇をきっかけに、スタートアップ界隈でも話題の多かった福岡で1.5カ月間のショートステイを試してみることに。

菅原 「そのときは僕に情報が集中しちゃったんですよね。社内の情報や相談も、顧客からのフィードバックも、すべて僕がハブになって伝わっていることに気づいていた。だからこそ福岡へ行って物理的に距離を取れば、他のメンバーにも情報が流れていくだろうと考えたんです」

そんな折、福岡に滞在する菅原のもとに、一本の電話が入ります。相手は、今にも泣きそうな声で「だめだった、ごめんな」と伝えました。採用に乗り出していたコンサル兼編集担当、言わば「菅原の後任」を捕まえきれなかったことを謝る航からの電話でした。

菅原 「採用できなくてごめんなって言われて。告白してフラれたのは生まれてはじめてだ、なんて言ってましたね(笑)。でも、そのときに思ったんです。こういうときはそばにいてあげないと潰れちゃうんだろうなって」

想定外の経験を得た菅原でしたが、一方で彼が福岡にいる間に、東京では数名の新規採用も決定していました。しかしながら、このときの採用は、結果的にいえばその後の定着につながらず、会社としては苦い歴史の1ページになってしまいます。第2期ではオペレーションの整理に苦難し、この第3期ではその後も続く人材の問題に直面していくのでした。

航 「とにかく PR Tableに合わなかった人材は、一様に『菅原のことが怖い』と(笑)。まるでリトマス試験紙のようでした。僕ら 3人が半蔵門で家をシェアしていた時代の延長線でやってこられたのは、まさに第 2期まで。というのも、僕らの会話はケンカしているつもりでもないのに、(主に菅原が)本音をまっすぐに言うせいか怖い印象を与えるみたいで……」

それまでの関係性の上に築いたカルチャーが、後から入ってくる社員にとっての障壁になる。スタートアップの難しさを感じはじめていました。

キャッシュアウトの危機が「経営」を目覚めさせた

▲キャッシュアウトを目前にした当時は、まさにHARDな状況だった

一方でPR Table社の財務状況は依然苦しい状態が続いていました。読者数をアップするためにNewsPicksへの有料配信などを開始する投資を始めたのもありましたが、財務を見ていた金子は3月頃に「このままでは5月までにはキャッシュアウトする」と遅めのアラートを鳴らします。

菅原の帰京後、3人揃って入金を早めてもらえるよう顧客へのお願いに追われることに。新規入社の社員も3名決まっているなかで、急ぎのファイナンスに乗り出します。

航 「 4月くらいから既存の株主にも話し始め、事業の伸びも良くなく、レスキューファイナンスであることにお叱りをいただきました。ただ、ここで株主へ適切な情報共有が出来ていなかったことに気づけたのは、振り返れば学びでしたね」

しかし、ここで助け舟が現れます。デジタルガレージの全額出資子会社で、投資・育成事業を手がけるDGインキュベーションの猿川雅之氏が、PR Tableの事業内容や領域を見込んで出資に乗り出してくれたのです。「君たちがものすごく頑張って駄目だったら、もうPR領域に投資はしないつもりだ」という大きな期待も預かりました。

DGインキュベーションからの資金調達を皮切りに、他の企業からも投資を取り付け、2017年9月19日には総額約1億5千万円の第三者割当増資を実施するまでになりました。

海 「実際に DGインキュベーションが投資を決めてくれたことで、他の企業の風向きが一気に変わったのも感じて。嬉しい反面、自分たちの動きだけでその風を起こせなかったことには、どこか悔しい思いもあったんです」
航 「そこからは交渉にも強い気持ちとロジックを持とう、という思いが強まりました。改めて株主との関係構築を捉えなおし、株主向けの資料を毎月作成して報告するようにしました。すると、それが事業の解像度を上げることにもつながり、課題発見からの打ち手までが高速サイクルで回せるようにもなって」
菅原 「社内の変化を報告する週報や月報を公開し始めたのも、この 9月のファイナンスからでしたね。最初は株主への説明責任という意味合いが大きかったのですが、これも社内をオープンにすると共に、採用や事業の推進力になってくれる取り組みになりました」

さらに、PR Table社のビジネスモデルにも変化が起きます。2017年3月には無料アカウントの登録を廃止し、サービスの月額課金制へ方針転換したことで、「払いきりのコンテンツ製作代行」というビジネスモデルからも脱却を図っていたのです。

この施策が結果的には当たり、導入企業の数が伸びていくことで事業的には新しい輝きを得ていきます。仮にファイナンスが成功しなかったとしても、キャッシュアウトが後ろ倒しになるほどの伸び率を見せていきます。

リードインベスターとの付き合いで「景色が変わった」

▲資金調達リリース用に撮影したものの、ボツになったアロハ写真

航や海は今回のファイナンスを経て、より経営的視点を強めることになります。投資家との向き合い方や情報の出し方にも大きな変化が起きました。

航 「反省を踏まえて、リードインベスターとの付き合い方が重要だと学んだんです。投資家も事情は様々ですが、やはり周りの動き方次第で左右されるところもある」
海 「事業の状態を正確に言語化し、伝え方さえミスしなければ、シンプルに物事が進んでいくのだと感じました。自分たちがどこへ向かっているのか、まずは自分たちがしっかりと理解した上で、伝えるべきことを投資家に伝える。その後にも生かせる学びを得たのだと感じましたね」

365日いつでも自社の事業に向き合い、時間をかけているからこそ、「伝えたくなること」は増えていくもの。しかし、聞き手や投資家サイドからすれば、必要のない情報の方も多い。失敗体験やヒアリングした情報などから「勝つための戦略」を導き出し、端的にイシューを伝えるというスタンスこそが求められていると、航と海は学び得たのです。

また、DGインキュベーションとのつながりも、それまでになかった交流をもたらします。起業家の先達や友人が出来たことで、それまで得られなかった情報や考え方を学ぶ機会が増えたのです。今までにない環境は、ふたりに「景色が変わった」という感覚を覚えさせるまでになりました。

一方で、窮地を救ったDGインキュベーションからは新たな課題も与えられていました。それは今後の1年間でPR Tableの「ブランド」を高め、未来をつなげることでした。その結実として、PRに関係する人々なら誰もが参加したくなるような、コミュニティ志向の大型カンファレンスを開催が掲げられたのです。

次なる年への“成長痛”を、第4期へつなげられるのか

▲3期の月イチ行事だった「センス給大会」の様子。組織活性化には繋がらず廃止となった

しかし、事業やファイナンスの苦境を乗り切ったとはいえ、PR Table社内に残る人材の問題は解決してはいません。

菅原 「僕ら 3人ともこれまでの仕事の経験から、労働集約型に対するコンプレックスみたいなものがあって、まだそれが必要とも思えない人員規模でも、すぐに組織の仕組み化をしたがったんです。ピラミッド型の組織をつくりたがったり、人材がワークしないのは評価目標がないからだろうとか。だいたい 4Qくらいから人事評価システムも導入したんです。そのあたりの制度周りを整え始めてしまっていましたね」

また、「株主向けの情報」と「社員向けの情報」の切り分けができていなかったことも、社内の雰囲気を悪くする原因でした。たとえば、株主向けにストレッチを掛けた目標が、そのまま社内に共有されている。個人ベースでは達成できていなくても、誰かひとりの突出した成果で目標が達成されているような状況が続いてしまう。すると、たしかに目標は達成されて会社は成長していても、各個人の成功体験にはつながらないのです。

航 「しかも人事評価制度を設けていたのが余計によくなかった。自分たちのつくった仕組みにがんじがらめになってしまっていましたね……。事業が未成熟なときにおける人事評価については、ここで一回失敗しています」

しかしながら、Wantedlyや紹介会社など、様々な経由で新しい人材の獲得は続きます。その人材とも共闘しながら、本業の展開とは別に、9月から11月にかけては一般社団法人at Will Workとのアライアンスで50本のストーリーを監修、10月には翌年の自社開催カンファレンスを見越したオウンドメディア「PR Table Community」がスタートするなどの展開も続いていきました。

第3期は事業、ファイナンス、人材と、経営の要諦で多くの躓きを得たことは、次なる年への“成長痛”とも呼べる経験となりました。

菅原 「既視感があるんですよね。あ、この失敗は知ってるぞ!っていう。この社員数の規模で役員が 3人いることのメリットは『いち早く失敗できる』ことでしょう。だいたい誰かが余計なことをするので(笑)。 1人しかいないと、なかなか余計なことはできないですし。ただ、六本木オフィスの頃は、まさに暗黒時代だったという感想になりますね……」

たしかに成功した一面はありました。しかし、山積みとなった課題は持ち越されてもいます。それらが噴出しながら、社運を賭けた大型カンファレンスに立ち向かう第4期が待ち受けます。

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