若手エンジニアの早期離職を防ぎたい!上司に内緒で相談できる「キャリア相談室」

人材不足のIT業界で、若手エンジニアの早期離職は重要な課題。システムインテグレータ(SI)事業を中心に、自社サービスの展開へと活動領域の幅を広げているエーピーコミュニケーションズも例外ではなく、20代エンジニアの約64%がキャリアに悩んでいました。その問題にどう向き合い、解決したのかを紹介します。

キャリアパスに悩む若手、サポートしきれない管理職

▲キャリア面談を一手に担うのは、国家資格キャリアコンサルタントを持つ池田幸恵

SIerとしての常駐技術支援事業を中心としつつ、オリジナルプロダクト開発も手掛けているエーピーコミュニケーションズ(以下、APC)には約400名の社員がおり、そのうちの9割近くがエンジニアです。

「エンジニアとお客様を笑顔にする」というAPCのビジョンは、お客様を笑顔にするのはそのお客様と直接関わるエンジニアであり、そのエンジニアが生き生きと笑顔で仕事ができなければ、お客様も笑顔にすることはできない、という想いから掲げられています。

こういったビジョンや事業内容に共感してくれるエンジニアをAPCでは通年採用しており、年々社員数は増加しています。

しかし、人材不足が叫ばれるIT業界では、採用は年々厳しくなっていく一方。そこで、APCでは若手の未経験者採用も推進してきました。

それに合わせ、新卒向けには3カ月の研修を設けたり、技術系の研修を充実させたりと、未経験でもできるだけ早く立ち上がれるよう、環境の整備も進めています。

ところが、ある時期から若手の離職率が上がり始めるという事態に。

2019年10月現在、キャリア相談室を担当する組織能力開発部の池田幸恵は、当時の立ち上げ担当者からこんな話を聞いたといいます。

池田 「離職の原因を探るため、若手社員へのインタビューや離職者の分析を行ったところ、ふたつの問題が見えてきたそうです。ひとつは、若手社員がひとりでキャリアパスを描けず悩んでいるということ。もうひとつは、彼らに対して組織的なキャリア開発支援ができていないことでした」

若手エンジニアは、それまで抱いていた夢や理想と現実とのギャップに悩んだり、仕事へのプレッシャーをひとりで乗り越えることができずに、モチベーションを低下させたりすることも少なくありません。

その状態で、3年後5年後のキャリアパスを自分ひとりで描くというのはとても難しく、描けないことで自分はこの仕事に向いていないと思い込み、離職してしまうのです。

また、そういった若手のキャリア開発を支援する立場の管理職は、自身もエンジニアの仕事をしながら部下の管理をしなければなりません。定期的な1on1を導入して業務目標に対する支援はしていましたが、キャリアプランニングまでサポートしきれていませんでした。

若手エンジニアのキャリアに関する悩みや不安を受け止め、一緒に考えるということを上司だけに任せるのではなく、もっと組織的にサポートしよう──そんな想いから「キャリア相談室」が生まれました。

査定にも評価にも関わらない。だから本音を引き出せる

▲中立的な立場で話を聞いてくれるため社員の満足度は高く、最近では自発的に相談に来る社員も増えています

キャリア相談室の立ち上げに当たっては、キャリア開発の先進的企業にヒアリングを実施。そこで得た学びから、安心して相談してもらうために人事部門から切り離し、査定も評価も一切せず、あくまでも中立的な組織にすることに。

また、設置しても面談者が来ず、なかなか機能しないとも聞いたため、20代社員のキャリア面談を必須にしました。APCでは入社1年未満の社員は、入社3カ月、6カ月、1年後の年3回の面談を受けることになっています。キャリア面談を「当たり前のもの」として会社になじませるためには、まずキャリア面談に触れる機会をつくってあげることが大事なのだという考えのもとでの施策でした。

そして、お客様先に常駐している社員も多いため、Web会議サービスを利用したリモート面談も実施しています。しかし、ただ回数を重ねるだけではサポートしたことになりません。社員との信頼関係を形成するための努力が求められました。そのために重視していることは──。

池田 「面談をする上で一番大切にしているのは、中立的な立場を貫き、守秘義務を守ることです。仕事を評価する上司ではなく、査定に影響を与えない立場だからこそ話せることがあるからです」

キャリアに関係する話は前向きなものばかりではありません。「仕事が楽しく感じられない」「エンジニアに向いていないんじゃないか」こういった話こそ、キャリア相談室で一緒に考えていきたい内容です。

しかし「ここでなら安心して話せる」という心理的安全性がなければ、誰も本音では話ができません。「査定に影響したらどうしよう」「上司に知られたら仕事がしづらくなる」そんな不安を感じさせないためにキャリア相談室を人事組織から切り離し、守秘義務を徹底。

状況によっては、上司などに共有しなければ解決しない問題もあるので、そう判断した場合は本人に「この内容だけは会社側に伝えてもいいですか?」と、共有する内容の一語一句に対して了承を得てから、必要な第三者にだけ伝えています。

また、面談内容はカウンセラーが文字に起こして、本人にフィードバックするという工夫も。

池田 「相談内容を文字に起こし、可視化することはとても大事なんです。面談時に自分が言いたいことをきっちりと整理できている相談者は多くありません。そのときになんとなくモヤモヤしていたことも、こうして起こされた文字を読むことで、『ああ、自分はあのときこう考えていたんだな』と再認識することができ、頭が整理されます」

若手社員と管理職、それぞれに必要なスキルも伸ばす

▲キャリアデザイン研修の様子

こうした面談とは別に、自分でキャリアパスを考える力を伸ばすための研修として「キャリアデザイン研修」も実施。ストレングスファインダーという強み診断ツールで自身の強み・弱みを知ることから始めます。そして、グループディスカッションを通して、これまでのキャリアを振り返りながら、自身の強みを業務の中でどのように生かすのかを、具体的な行動計画に落とし込みます。

池田 「この研修を受講した 20代社員の 65%が、自身の強みを生かした行動計画を立てることができました。また、実施後のアンケートでは受講者の 87%が『自己理解が深まった』と回答しています。キャリアデザイン研修は、ひとつめの問題であった “若手社員はひとりでキャリアパスを描けず悩んでいる ”に対する解決策のひとつとして機能しているのではないでしょうか。確かな手ごたえを感じています」

また、ふたつ目の問題であった「彼らに対して組織的なキャリア開発支援ができていないこと」については、キャリア相談室を立ち上げるだけではなく、直属の上司のキャリア支援スキルの向上にも力を入れました。

池田 「本来は、私たち組織能力開発部だけではなく、若手社員に関わるすべての人たちがキャリア支援の知識を持っているというのが理想だと思います。
少しでもその理想に近づけるようにと、部下との関係性の改善を目的とした管理職向けの研修も企画。キャリアの話はとてもセンシティブなので、査定の権限を持つ上司が部下の本音を聞けるようになるためには、それ相応の信頼関係が必要になります。そこで、まずは相手の話を真摯に聞く “傾聴 ”のスキルを向上させる研修から始めました」

この研修を実施する前に全社員に対して、管理職の日頃の振る舞いについてのアンケートを実施。そのリアルな声を研修の中で示すことで、コミュニケーションの課題に気づいていなかった管理職の意識改革を促しました。

その結果、管理職の行動に変化が現れ、再度実施した全社員アンケートでは80%の社員から「上司が自分を尊重して話を聞いてくれるようになった」との回答を得られるまでになったのです。

キャリア相談室の成果と未来

▲この取り組みは「ホワイト企業2019」の人材育成部門で受賞を果たしました

2018年1月に設立したキャリア相談室は、着実な成果を残しています。キャリア相談室を利用した社員へのアンケートでは、81名のうち95%から「面談に満足感を覚えている」との回答を得ることができました。

さらに、キャリア相談室の開設後は20代の離職率が半減。キャリア相談室やキャリアデザイン研修を利用することで、キャリアに対する不安が解消され生き生きと仕事に取り組む若手エンジニアが増えています。

そして、この取り組みは第4回ホワイト企業アワード2019の「人材育成部門」を受賞し、社外からも評価いただけるようなAPCの特色のひとつとなりました。

池田 「研修を通して若手エンジニアが徐々に自分でキャリアパスを描けるようになり、管理職のキャリア開発スキルが上がって 1on1でキャリアの相談もできるようになっていけば、ゆくゆくはキャリア相談室の利用は減っていくかもしれません。
しかし、社内にいつでも駆け込める場所があるという安心感は大事だと思うんです。キャリア相談室がみんなの駆け込み寺であり続けるために、これからも活動していきます」

若手社員が抱える“夢や希望と現実のギャップ”や“キャリアパスに対する不安”は、本人が乗り越えるべき壁です。

しかし、その壁はひとりで乗り越えるにはなかなかに高い壁であることも確か。それを会社がサポートすることで社員は向上心を持ち、会社と一緒に成長しようとしてくれるのではないでしょうか。

働きやすい環境をつくり、誰しもが目標を持って働くことができる会社であるために。エーピーコミュニケーションズはこれからも、社員のキャリア開発支援に力を入れていきます。

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