採用データを見える化──企業と学生が対等になる「正直な採用活動」の実現を目指して

採用活動において、国が定めた倫理憲章が機能していない事例が多々あります。ソーシャルメディアサービスやシェアリングエコノミー事業を展開するガイアックスでは、企業と学生が対等となる採用活動を目指し、採用データの情報を開示しました。採用活動の現状や情報開示による予想外の効果とは。人事担当の藤堂和幸がお伝えします。

初の試み。採用活動の不誠実を解消するため、採用データを開示

▲新卒採用チーム(左が藤堂和幸、右は流拓巳)

「採用活動の解禁は6月から」

倫理憲章ではこのように定められています。しかしふたを開ければ、2019年卒の大学生の就職内定率は、就職活動解禁初日のはずの2019年6月1日時点で70%を超えていました。

採用活動において倫理憲章が守られておらず、開始時期をちゃんと守った学生にとって、とても不利な状況になっています。ソーシャルメディアサービスやシェアリングエコノミー事業を展開する株式会社ガイアックスは、以前からこの不公平な就職活動に対しての疑問を抱いていました。

一番の問題は、企業が学生を選ぶという構図です。加えて選考状況や採用データなど、企業側にとっては情報を出さない方が都合よく進められます。しかし学生が納得して人生の決断を進められる採用活動とは、情報をオープンにした状態で企業と学生が対等になって初めて成立するものてす。

採用活動でまかり通っている不誠実を変えたい。そう考えた人事部の藤堂和幸は、2019年卒の採用データの情報開示をしようと思い立ちます。

藤堂 「企業側は過去の採用情報を公開しないために、学生側もどの企業に就職すればいいのか、その判断ができない状況です。大学側も学問を優先してほしいので、キャリアに関するサポートも十分にはできていません。
つまり就職活動自体が学生の自己責任となっており、負担が大きいんです。そこで当社では、通年採用をしていることを公開。毎月の採用データを作成し、面接通過状況や大学群別の採用データも開示し、学歴フィルターは存在しないことも伝えました」

2018年当時、倫理憲章を守っていないと宣言する企業はありませんでした。

当社が先駆けて発表すると世間から批判を浴び、非難の嵐になるのではないか……。そんな不安があったことも事実です。

しかし倫理憲章自体がなくなるという噂もあり、企業も学生も、新卒採用が混乱する可能性がありました。そのため採用活動の進め方を示す意味も込めて、情報を開示することにしたのです。

多様性を大切に。学生たちにとってスムーズな就職活動が実現

▲公開した採用情報

情報開示を進めたことで、社外の評判も変わってきました。

他社の人事の方からは、「よくそんなに公開できますね」という驚きの声が。周りからの信頼を得て、人材紹介会社や広報支援を担う外部メディアなど、当社に賛同してくれる採用パートナーも増えています。

このような採用情報の見える化を重視することに加え、当社は「多様性を歓迎している」と伝えることも大切にしてきました。

現在の採用状況は倫理憲章が機能せず、学生たちも不安になりがちでいます。そのため彼ら彼女らが萎縮してしまい、自分の個性を出しづらくなっていることも事実です。多様性を受け入れているし、自分らしさを出した上で希望に沿った会社を選んでほしいと考えています。

藤堂 「実際に当社でも、 NPOの活動もしながら会社員として働いたり、 2社で正社員として働いたり、リモートワークで参画したりとさまざまなメンバーがいます。
性格や目指す方向性に合っているのか判断できるよう、広報ブログや取材記事で社員や仕事のことを発信することで、現実とイメージのギャップを埋めて、就活生に当社との相性を見ていただけたらと思っています」

発信をコツコツと続けたことにより、公式HPや社員の取材記事を通して当社のことを知る学生が増加。実際の応募につながっています。

藤堂 「学生からは、『データを細かく見ています』と言われることもあります。
ある内定者は内定出しの数に注目し、エントリー時期をコントロールしていたようです。そのため焦らずに準備万端に臨めたという声をいただきましたね」

内定者からは、「ミッションに共感した」「社風にフィットした」「『シェアリングエコノミー』という最先端のCtoC事業に興味を持った」などの入社の動機が挙がっています。さらに、予想外の結果も生まれました。

採用活動の工数が大幅に削減。新たな展開の兆し

▲Nagatacho GRiDの様子

この取り組みを始めて、ビジネス職内定者における女性比率がかなり上がりました。これまでに入社した新卒の男女比は2:1が主流でしたが、2020卒の内定者は1:5という驚くべき結果に。以前は男性の採用が女性に比べて多いということに悩んでいましたが、逆の現象で悩むことになりそうです。おそらく、一般企業では活躍の機会を得られないと考える女性に、当社の認知が広がってきた結果だと思います。

今回の取り組みに加え、当社のオフィス環境もこのような結果を生み出した理由のひとつだと考えています。

藤堂 「人と人とのつながりを重視した事業をしているため、オフラインで場をシェアできる『 Nagatacho GRiD』をつくりました。そこに 2017年にオフィスを移転し、仕事のみならず交流の機会も広げています。
他社オフィスもあり外部の方も自由に使えて、全体的に女性の比率が高いんです。そのため見学する中で、女性にとって入社後のイメージがつきやすかったんだと思いますね」

また採用データの情報開示を始めてから、当社が求める学生とのマッチング率も加速。内定率も上がり、就職活動イベントや面接の回数が以前より減り、大幅な工数の削減につながりました。そのおかげで、採用以外の取り組みを進められるようになります。

藤堂 「具体的には、育成により注力できるようになりました。研修の整備や講師の手配など、社員への育成はとても工数がかかります。さらに通年採用なので、 4月にだけ研修期間を設ければいいというわけでもありません。いつ入社してもちゃんと研修を受けられるような体制を、採用活動と並行して進められるようになりました。
また当社は投資をしている企業が多いので、支援先の採用や、人事体制の構築支援も対応できています。これらも今後、サービスとして本格化させていきたいですね」

「正直な採用活動」は、さまざまな副産物を生み出しています。当社の後を追って、同じような取り組みを始めた企業も複数出てきました。企業と学生が対等になる採用活動を切り開いた、ファーストペンギンとしての役割を果たせたのではないかと実感しています。

入社前の教育体制を強化し、社員のリテラシー向上に向けても始動

▲内定者と配属先候補の座談会

当社にはさまざまな雇用形態・働き方をしている社員がいるように、自由であることを推奨しています。ただ「自由な会社」というイメージだけを持たれたくはありません。

自由な働き方をかなえるには、労務関係においても個別の対処が求められます。

「動きたいように動ける!」と思われて応募が増えてもミスマッチが生じ、結果的にお互いの大切な時間を無駄にしてしまうでしょう。

自律した先に、自由な働き方がかないます。しかし自由を重視する会社を目指すことで、「誰がいつ新入社員を教育するのか?」という課題も浮上してきます。

藤堂 「社会人の初期教育に関して、カリキュラム化して進めている大学のような機関はありません。ですからこの問題は、社会全体で起こっていくはずです。
内定者には採用コストをかけて教育をしていきますが、独立採算で成り立っている部署が多いため、配属されないチームがコストをかけることに疑問を持つことも……。そのため即戦力の社員を育てるために、入社前の教育体制も会社全体で整えていきたいと思っています」

今は月に一度、インターン生や内定者に社会人教育の時間を設けるなどの取り組みを始めています。また、順調に社員も増加しているため、今後はガイアックスについての社員のリテラシーを高めることにも注力したいと考えているんです。

藤堂 「部署ごとの独立傾向が強いので、他部署のことを聞かれたときにうまく答えられない事態も発生しています。ガイアックスで働いているという認識が、良くも悪くも社員の中で薄まっていることも事実です。
そのため会社全体の説明を誰もができる体制を整えたり、社員同士の人間関係を構築するイベントなどしたりできたらなと。今は部署を横断して交流する機会も設けていて、取り組みをプログラム化していきたいですね」

「正直な採用活動」は、まだ始まったばかりです。

生まれた効果を大切にしながら、社員の育成を進め、絆も深めていきたい。この活動を皮切りに、今後も多様性を維持しながら、社員たちの化学変化を生み出せる会社を目指していきます。

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