「商店街のような薬局」を目指して──“新しい薬歴”で患者とLifeを紡ぐ

大阪吹田市にあるヤマグチ薬局は町の薬局として長年、地元の人に愛されてきました。先代から薬局を引き継ぎ、その経営にあたる山口晴巨さんは地元密着型の薬局──コミュニティファーマシーづくりを目指し、日々奮闘。その一環としてGooCoを導入します。そんな山口さんの想いとGooCo導入による薬歴の変化とは。

この薬局を大事にしたい── 父の跡を継ぎ、二代目に

ヤマグチ薬局は昭和42(1967)年、山口さんの父親が町の商店街にオープンした薬局です。昭和の高度成長期、父親は医薬分業を夢見て土日も祝日もなく、薬局、薬剤師会、商店街、地域コミュニティ活動で1年のうち360日くらいお店を開け、本当にフル回転で働いていました。

そんな父親の背中を見て育った山口さん。2019年現在、ヤマグチ薬局を代表として率いています。ヤマグチ薬局がオープンした当初、幼かった彼にとって薬局の倉庫が遊び場で、地元の人たちとのにぎやかな日々を過ごしたといいます。しかし、そういった環境で育ちながらも当初は店を継ぐ予定ではなく、製薬会社でサラリーマンをしていました。

山口さん 「薬科大学を卒業して薬剤師にはなったものの、個人薬局には厳しい時代が来るのはわかっていましたから。自分が育った商店街もなくなったし、サラリーマンで一生を終える気でいたんです」

ところが2006年、薬局を切り盛りしていた父親が体調を崩し「ヤマグチ薬局を閉めるのか、譲渡するのか、自分が継ぐのか」という選択を迫られることになります。

山口さん 「そのときに気がつきました。現在世の中から求められている薬局の役割は、ヤマグチ薬局が昔からやってきたことにほかならないのだということに。コミュニティの中に存在する薬局の価値を再認識したんです。そしてこの薬局を大切にしたいと思い、 2011年に代表取締役として正式に継承しました」

こうして薬局への“想い”を胸に、ヤマグチ薬局を継承した山口さん。薬局を継いで以来、仕事で悩んだときに自分を基本に立ち返らせる言葉があります。

「町の薬局薬剤師とは、患者さんやその家族の健康問題を知っており、気にかけている存在である( Community pharmacisit is the person who knows you, knows your family and knows all of your health problems, and cares about you.)」というものです。

山口さん 「私たちは、患者さんが来たときにその患者さんのことを認識している、ということをまず大事にしています。たとえば、 2日前にもお兄ちゃんを連れてきていたお母さんが『今度は下の子が……』と思っているのに、兄弟同じ薬が出て同じ説明を繰り返される。
マニュアル通りは悪いことではないけれど温かみがないな、と。“処方せん調剤における服薬指導 ”という意味ではなんら間違ってはいないんです。でもご家族としては 『その後お兄ちゃんどうですか?』のひと言が欲しい。それに応えてあげられる薬局にしたいと思っています」

GooCoと出会い、薬歴は大きく変化する

「おばあちゃん、入院されましたけどその後どうですか」、「先日抗生剤が追加されましたけど、その後、熱は下がりましたか?」患者さん本人や家族のことをしっかりと知り、その人に合わせて薬や健康のことをやり取りできる。そんなやり取りを支える補助ツールが薬歴だと山口さんはいいます。

山口さん 「以前にも何度か紙薬歴から電子薬歴へ切り替えるタイミングはあったんですが、その都度、見送っていました。紙の方が電子薬歴よりも圧倒的に優れていると考えていましたから。デジタルの電子薬歴は文字情報の羅列で、視覚的に瞬時に必要なポイントにたどり着くには難がありました。
一方、アナログの手書き情報では、強調したい箇所に派手な色でアンダーラインを引いたり、重要箇所を矢印でつないだり、文字だけでなく絵の要素を含められることで必要な情報が視覚的に入ります。『ページをめくる』という超シンプルなアナログ行為が電子的には難しいらしく、操作性はまだまだ紙が優位だと思っていました。
また、手書きの薬歴はそのページをパッと見ただけで、そのときの状況が思い浮かんできます。紙薬歴を患者さんの人生物語が詰まった大切な全集のようにもとらえていました。なので、しばらくは “紙対応 ”でいこうと思っていたんです」

しかしGooCoと出会い、その考えは大きく変わることに。山口さんにGooCoの存在を教えたのは、医療展示会に行った同僚の薬剤師。話を聞き、GooCoなら紙と電子のいいところ取りができると、2016年末に採用したのです。

山口さん 「 iPad端末にはカメラという『目』があり、音声入力という『耳』があり、計算や記録のできる『脳』があり、持ち運べる『足』がある。そこに可能性を感じました。たとえばカメラ。普通の電子薬歴だと文字入力中心となり、ひと目で大切なことがわかりません。しかし、 GooCoなら調剤した薬と処方箋をカメラで撮影したものを、患者さんごとに保存しておけるんです」

また、 GooCoを導入したのはそれだけが理由ではありません。

山口さん 「そのときに出したお薬の種類だけでなく分量も視覚的に記録ができますので、後で患者さんから問い合わせがあったときの対応や鑑査システム的な役割も果たしてくれます。やはり 1枚の写真に含まれる情報量は文字とは比較にならないほど大きいと感じます。
また、投薬直前にその写真を経時的に並べることで、処方内容の推移をざっくり視覚的につかむことができます。『絵を見てざっくりとつかむ』ということは AIより人間の方がまだ優れていますが、逆にデジタル文字情報で差異を正確に抽出するという能力では、人間は AIにはかないません。アナログとデジタルを組み合わすことが有用だと感じています」

また、データの管理・分析といった側面だけでなく、患者さんへの説明の際にもGooCoは一役買っています。

山口さん 「ほぼ毎回同じ薬を服用している慢性疾患の患者さんに対して、今まで飲んでいた薬の写真を 2本指で実物の大きさまで拡大して、実物の薬と並べて『今までこれだったでしょ。今回からこっちですよ』と、言葉だけでなく視覚や感覚に訴える形で説明することができます。
また、添付文書の PDFにも指 1本でアクセスでき、副作用や血中濃度の推移も iPad上に現れます。口頭による言語情報、紙に書かれた文字情報、写真と実物による視覚情報をその場で組み合わすことができる GooCoは薬剤師にとって心強いツールだと思います」

加えて山口さんは「耳」である音声入力もフル活用しています。作業時間短縮には強力な身方で、変換精度も高くタッチパネルの入力が面倒と思うほどだといいます。GooCoはすっかりヤマグチ薬局になじんでいるのです。

薬局の待合いスペースはプライスレス

さらに、もうひとつGooCoの大きな強みとしてあげられるのが家族検索です。

山口さん 「コミュニティファーマシーであるためには、ご家族のことを含めて患者さんの情報を頭の中にたたき込む必要があります。薬歴は家族軸と時間軸が大事なのですが、電子薬歴だとそれがバラバラに記録されることがほとんどでした。一方、 GooCoは家族検索の機能を持っています。コミュニティファーマシーを支えてくれる存在です」

紙薬歴を運用していたときは、患者さん当人だけでなくそのご家族の薬歴にも履歴を残していたといいます。この手間は機能によって解消され、また薬剤師が患者さんとコミュニケーションする際の記憶の助けにもなっています。これがiPadは「脳」を持つという由縁です。

そして調剤室や投薬カウンターを超え、待合いスペースにも持っていけるポータビリティ──「足」もまた、コミュニティファーマシーを支える重要な要素なのだといいます。

山口さん 「私は薬局の中で、待合いスペースをとても大事にしています。待合スペースは気配りと思いやりの空間。健康相談なのか、人生相談なのかわからないような話や、たわいもない世間話こそが『この薬局に来て良かった』と患者さんに思ってもらえるものだからです」

薬剤師は、間違えず正確に調剤をすることに相当な神経と労力を使いますが、患者さんにとってみればそれは(残念ながら)当たり前のニーズ。当たり前のニーズに応えるという“最低限”だけでは決して評価されません。「この薬局はいい!」と思ってもらうためには潜在的なニーズにも応えていかなければいけないのだと、山口さんは考えているのです。

山口さん 「もちろん正確な調剤や正しい説明といったいわゆる “業務 ”上のミスはあってはなりません。しかしそれだけをずっと続けていれば評価が向上する、という簡単な話でもないのです。スキル的には何も問題がないのに、お客様から厳しいお声をいただいている薬局もしばしば目にしますから。
ではどこで評価が変わるのか。それは、待合いスペースでの何気ない気配りと思いやりなのだと私は考えています。カウンターでの正確な服薬指導で語られているのは Medicine──医学・薬学 という知識や情報ですが、待合いスペースでのリラックスしたやり取りで語られているのは Life、つまり生活なんです。知識や情報を得ることはもちろん大事でしょうが、 Lifeを共有してもらえるというのは患者さんにとって確かな価値になるのではないでしょうか」

しかし同時に、山口さんはそういったプラスアルファの価値を提供することに対する難しさも感じています。コミュニケーションは一方的な押しつけであってはならないからです。

山口さん 「コミュニケーションを取ることは大事ですが、ただ積極的な声がけをすればいいというものではありません。微妙な距離感が大切で、小さな親切以上、大きなお世話未満でなければなりません。プライバシーにも配慮しながら科学的根拠に基づいた世間話に花を咲かせるのは簡単ではなく、自然であるということが実は一番難しい。
調剤や投薬カウンターの服薬指導は保険点数として評価されるけれど、この待合いスペースでは点数はつきません。しかし、この取り組みによって患者さんにプライスレスな価値を提供できるのだと信じています。 Medicineは Lifeとつながることで Healthになる。せっかくがんばって患者さんにとっての当たり前を実現し続けているんですから、それを満足で締めくくりたいですね」

お店に入ってくる患者さん一人ひとりに山口さんは声をかけ、迎えます。患者さん誰もが特別な存在です。

コミュニティファーマシーとしての薬局を求めて

かつての商店街には八百屋があり、魚屋があり、花屋があり、そして薬局がありました。しかし、今や商店街自体が廃れてしまっています。低価格で豊富な品ぞろえ、そして見た目も洗練されたスーパーやショッピングモールなどが地域に根づき、個人商店の集まりでは対抗できなくなってしまったという背景が、そこにはありました。

そういった意味で、商店街は時代に淘汰されてしまったといえるでしょう。ですが、貴重なコミュニティ機能を持ち合わせていたというのもまた事実です。山口さんは、その価値をヤマグチ薬局で実現したいと考えています。

山口さん 「商店街が “場 ”としての価値を持っていたのは確かだと思います。その価値は見直されてもいいのかな、と思うんです。お客様というより『お互いさま』。あいさつをし、世間話をし、相談してモノを買っていました。モノがコト化していたといえます。処方せん調剤にあっても薬はモノであると同時に、コトでありたい。
『薬そのもの』というモノだけでなく、『手渡した薬が健康、生活、人生のエピソードにつながっている 』というコトに価値を見いだしてもらえるようになりたいんです。そしてそれは、薬局・薬剤師への信頼につながります。そのためにはやはりコミュニティ的な視点が大事になっていくわけです。
患者さんやそのご家族のことを知り、気づかうことができるのも地域の中の薬局であるからこそですから。それを存分に生かしていきたいですね。だからコミュニティの活動は大切にしていますし、そこに薬局の役割も見いだしたい」

薬局にコトとしての価値を。そう考える山口さんは、常に患者さんのことを考えて創意工夫を続けています。その一環としてヤマグチ薬局では地域のコミュニティの一員として、学校薬剤師、大学生向けの講義や小学生の課外活動などに積極的に応じるなど、通常業務以外の活動も行っているのです。

継いでみて初めて知った、薬局と人を巡る奥深い世界──山口さんはそのアイデア力とフットワークの軽さを武器に、これからもコミュニティファーマシーとしての薬局を追求していきます。

関連ストーリー

注目ストーリー