世界を旅しながら――「ワークアズライフ」な働き方

「アンコールワットから昇る朝日を浴びて、アドリア海に沈む夕日を眺めながら仕事をする」。誰もが夢に描くような生活を、30代半ばに実現した弁護士の藤井総(ふじいそう)。場所を選ばない自由な働き方の背景には、ITの活用と、仕事を生活の一部と位置づける、考え方の転換がありました。

ワーク&ワークを続けるべきではない。噴水に足を突っ込んだ日に決めたこと

▲藤井総

ITサービスを手がける企業のサポートをおこなう弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を運営する藤井総。幼いころから弁護士を目指してきました。

藤井 「小学生のころ、父が勤めていた会社でワンマン会長の解任劇があって、顧問弁護士の活躍で合法的に問題を解決したという話を聞いたんです。そのときにかっこいい仕事だなぁと思ったのが、弁護士になろうと思ったきっかけです」

会社が直面した困難を、法律を駆使することで解決することに憧れたという藤井。挑戦しがいのある難関資格であることと、自分の裁量と才覚で働けることに魅力を感じ、一直線に弁護士の道を目指しました。

そして大学在学中に司法試験に合格。都内にある大手の企業法務系法律事務所に所属しました。ひとりでたくさんの案件を抱え、業務能力を鍛え上げられながらも、激務を続けることに疑問を感じるようになります。

藤井 「自分の裁量で働けると思ったのに、事務所から次々に振られてくる案件をひたすら処理する余裕のない働き方に、理想とのギャップを感じました。土日出勤、連日深夜まで働いても仕事が終わらず、帰りのタクシーを探して寝不足でフラフラ歩いているとき、噴水に足を突っ込んでしまって(笑)

そこでようやくハッとして、働きづめの“ワーク &ワーク ”ではなく、仕事と生活のバランスが取れた“ワーク &ライフバランス ”を目指すべきだと思ったんです」


噴水での気付きを胸に、仕事の負荷が少ない都内の別の法律事務所に転属。さらにそこから、弁護士としての独り立ちを目指して、先進的なマーケティング施策に取り組んでいる横浜の法律事務所に転属します。

それまで、良い仕事をしさえすればクライアントが開拓できると漠然としか考えていなかった藤井は、マーケティングに長けた代表弁護士の下で、マーケティングの意味ややり方を初めて考えるようになりました。

以前と比べて仕事量も多くなく、自由度の高い働き方を手にした藤井は、最初の法律事務所で身につけた業務能力と、横浜の法律事務所で身につけたマーケティング力を活かし、着実にクライアントを増やしていきました。

しかし、クライアントが増えると比例して多忙な日々になり、「これでは以前と同じになってしまうのではないか?」と感じるようになります。

ITの活用で実現した、ワーク&ライフバランスな働き方

▲弁護士になりたてのころの藤井

実績を重ね、横浜の法律事務所で勤務弁護士からパートナー弁護士へとステップアップした藤井は、裁量も増えたことで、ITを積極的に業務にとり入れるようになっていました。なかでも2012年のクラウド型ビジネスチャットツール「Chatwork」との出会いは、働き方を劇的に変えたとふり返ります。

藤井 「弁護士業務は労働集約型なので、業務効率を上げるか、稼働時間を伸ばすか、単価を上げることでしか売上を伸ばすことはできません。稼働時間を伸ばすことのデメリットは経験していましたし、顧客に提供できる価値が変わらないのに単価を上げることも現実的ではありませんでした。

そこで、クライアントとのやり取りを、時間や手間のかかる面談やメールではなく、チャットに統一し、バックオフィスやルーチン業務を IT化してコア業務に集中することができれば、業務効率が上がるだけでなく、顧客満足度も上げられるのではないかと考えたのです」


アドバイスを求めるクライアントには、チャットを通じて速やかなレスポンスを実現。クラウドを活用し、いつでもどこでも働ける環境を整えたことで、業務効率と顧客満足度は飛躍的に向上しました。「これならひとりでも、仕事を進めていくことができる」と確信を持った藤井は、2015年に独立。

ITサービスを提供する企業がビジネスをする上で発生する問題解決や事前の予防策の提案、サービスのスキームに関する法的な問題点のチェック、利用規約や契約書の作成など、ITサービスを提供する企業に特化したリーガルサービスを提供する弁護士法人ファースト法律事務所を立ち上げました。

数多くの顧問企業と契約をしながらも、ITを活用した効率の良い働き方でワーク&ライフバランスの取れた働き方を実現できた藤井。ところが再び、自身の働き方に疑問が起こります。

働くことは生活の一部。それがワークアズライフ

▲アンコールワットでも仕事を

事務所経営も仕事の負荷も問題ない日々。一方で、独立したことで事務所に行く必要もなくなり、事務所のメンバーと仕事の話や雑談をすることもなくなりました。クライアントともチャットでしかやり取りをしないので、誰とも話をしない日々が続くことに寂しさと退屈感を抱くようになっていました。

そんなとき、妻が発した「そんなに自由でいられるなら、海外にでも行ってみたら?」の一言が、藤井の生き方を変えます。

藤井 「そのころはすでに、ネットさえつながればどこでも業務ができる環境が整っていました。それなら、別に海外を旅しながらでも働けるのでは?と思って、まずはマレーシアに 1週間滞在しながら働いてみたところ、全く問題ありませんでした。また、海外を旅するという刺激によって、良い気分の中で働くことができました。

それ以来、海外を旅しながら働く生活になりました。海外にいても常時ネットにつながった環境下にいるので、クライアントからの相談に対応できなかったり、行き違いや不安が起きることもありません。


せっかく海外を旅しているのに、仕事がつきまとうなんて嫌じゃないのか?と聞かれることもあります。けれど、仕事は旅と同じく、自分の好きなこと、趣味のひとつ。自分が応援したいと思っているクライアントとだけ顧問契約を結んでいるので、クライアントの課題を解決し、ビジネスをサポートすることはとても楽しいです。


旅先でクライアントからくるチャットの相談は、友達からくるLINEのメッセージと同じなのです。旅をして食事をして、音楽を聴いて買い物もする。そのひとつに仕事があるという感覚です。


仕事と生活を切り離して考えるのではなく、“ワークアズライフ”、つまり仕事を生活の一部と考えることで、何かを諦めることなく、旅をしながら働くライフスタイルを実現しました」


2017年、2018年と、毎年100日以上を海外で過ごすようになった藤井。こういう生活がしたくて目指したわけではなく、自分の気持ちに向き合いながら働き方を選んだ結果、気がついたらこうなっていたと振り返ります。

ITを業務に導入したことで、普通ならリタイア後の生活として夢見るようなライフスタイルを現役のまま手に入れることができたことは、偶然とはいえ何より大きな喜びでした。

“ワークアズライフ”をより多くの人に広めたい

▲妻と一緒に旅をすることも

藤井は今、自分が実現したこの“ワークアズライフ”を、より多くの人に広げていきたいと目標を新たにしています。2018年には、日本企業のサポートをおこなう小野智博弁護士と共同で、弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所を開設。

年間何十日も北米に出張する日々を送りながら、藤井同様、海外にいてもネットを通じてクライアントとつながる働き方をしている小野弁護士に共感したことがきっかけでした。

藤井 「小野弁護士と事務所を共同開設したことで、私が得意とする IT企業の仕事と、小野弁護士が得意とする北米進出を目指す企業の仕事とが、これまで以上に広がりました。それによって、将来的には今の事務所をプラットフォーム化して、他にも専門分野を持った弁護士に加入してもらうというビジョンが見えてきました。

この事務所に多種多様な専門性を持った弁護士が所属すれば、お互いにサポートし合うこともできますし、カバーできる範囲が広がるのではないかと考えています」


さらに藤井は、ITツールを活用することで自分が実現できたワークアズライフの生き方を、もっとたくさんの人に知ってもらい、より自分らしい人生を手に入れてもらうことをもうひとつの目標として掲げています。

先進的なIT活用についてセミナーでの登壇を頼まれたり、取材を受けたりするなど、自分の働き方を人に伝える活動をしているうちに、自分の人生を変えてくれたITツールがもっと世の中に広まってほしい、それによって多くの人にもっと幸せになってほしいと考えるようになったといいます。

たとえ職業は違っても、ITを活用することで、誰もがもっと好きな場所で好きな仕事をして生きていけるはず……。そんな藤井は今、2019年に生まれる第一子との未来を思い描いています。

藤井 「子どもが生まれたら、今度は子どもと一緒に楽しく世界を旅しながら生きていきたいですね。この素晴らしい世界への感動を、共有できる仲間が増えることがとても楽しみです」
仕事と旅というふたつの趣味に子育てを追加し、藤井のワークアズライフはさらにアップデートされていきます。

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