「かけがえのない存在」を目指して――農家とお客さまをつなぐプラットフォームになりたい

大分県の国見町にある、くにみ農産加工有限会社。1981年の創業以来、地域の農作物を加工した製品づくりに取り組んできました。ただし、ただの食品加工会社ではありません。紆余曲折を経て、農家と手を取り合い、いち早く六次産業に取り組み、ここだけにしかない価値を次々と生み出しているのです。

バジルを知らなかった従業員が、たまたま育てたことが好転のカギに

▲1983年頃、県内1周駅伝を応援する社員

大分県北部の国東半島に位置する国見町。古くから山岳仏教が息づき、山や谷が多いこの地域は、広い畑がなかなか確保できず、交通の便もあまりよくありません。そんな厳しい条件だからこそ、地元の人たちは団結して知恵を絞り、新しいことに果敢に取り組んできました。

新鮮な農作物をスピーディに運べないなら、地元に農産加工工場を作ればいい。そんな発想から「くにみ農産加工有限会社」が生まれたのは1981年のこと。国見町やキユーピー株式会社などが出資する、第3セクターです。創業時には「いい製品はいい原料から」「地域とともに」という方針を掲げました。

最初はイチゴの加工からスタートして、玉ねぎ、ほうれん草、人参などを作りました。しかし、イチゴは時期が限られており、他の地域にある玉ねぎなどの野菜では競争力が弱い……。いろいろと模索する中で、ひとりの従業員がたまたま農協でバジルを見かけて、植えてみました。すると、あまり手がかからずにうまく育ったのです。

バジルが日本でさほどメジャーではなかった、1990年代後半のことです。はじめは5人の農家に声をかけて、バジルの栽培をしてもらいました。それから少しずつ増え、初年度1トンだった収穫量は、今では100トンを超えるように。バジルの栽培農家も100軒を超えています(2017年時点)。

厳密なルールのもと、農家と一緒に生産性と質の向上に取り組む

▲国見の気候は、バジルの名産地であるイタリアの地中海性気候とよく似ている

社長の吉丸栄市は、くにみ農産加工を立ち上げた父の背中を見ながら、ここ国見で育ちました。東京の大学で生産機械工学を専攻し、卒業後はキユーピーに入社。工場の製造課に配属され、仕事に打ち込みました。

1998年、吉丸はキユーピーを退社して地元に戻り、くにみ農産加工に入社。ちょうどバジルの栽培を始めた頃でした。

吉丸 「国見は瀬戸内海式気候で、年間降水量が少なく温暖な地域。バジルの名産地であるイタリアの地中海性気候とよく似ているんです。ですから、良質なバジルを作るのに適していました。また、バジルの栽培は必ずしも広い土地を必要としません。まさに地の利を生かせる農産物。さらにバジルは軽く、高齢者や女性でも運びやすいのが魅力です」

できるだけ生産量を増やし、同時に質を高めるために、当社は土壌作りから栽培、収穫方法まで、農家を指導してきました。一つひとつの農家が限られた農地でしっかり収穫できるように、きめ細かくサポートする中で、農家との強い信頼関係が生まれています。

栽培に使う肥料や農薬、収穫のルールは、厳密に決めています。「新芽のバジルの葉の、2節目から下3.5cmを切ること」。当社はこれを徹底することで、新芽ならではの柔らかくさわやかなおいしさを楽しめるバジルだけを集めています。

収穫されたバジルは、農家が当社の工場に持ち込みます。それを全て、その日のうちに加工するのが当社のこだわり。バジル加工のために開発したオリジナルの特許ラインがあり、時間のロスをなくしてペーストに加工しています。そのため、新鮮なバジルの色や香り、味わいが際立っていると評判です。

バジルのほかにも、玉ねぎや人参、にんにくなどの野菜、米などを原料として、冷凍加工野菜、フライ食品、冷凍米飯などの製品を作っています。

農家・当社・お客さまに多メリットをもたらすKUNIMIXクラウド

当社は、いち早く農業のIT化に取り組んできました。

吉丸 「2004年、国がトレーサビリティを整備するときに、農家代表として参加してほしいと声をかけてもらったのがきっかけです。大分の当社に声がかかるとは、光栄でした。そのときの学びを生かして、トレーサビリティを高度化した当社独自のシステム・KUNIMIX クラウドを開発し、運営しています」

KUNIMIX クラウドには、当社で扱う農作物と農家の情報が全て入っています。一つひとつの農家のページを見ると、これまでに出荷した農産物の量や質、今栽培しているものの状況、出荷予定日や量などがわかります。

各農家は自分のページを見ることで生産を管理できて、農薬の量やタイミングについても、簡単にわかるようになっています。たとえば、自分のバジルのページを開くと、画面にはその時期に使える農薬が並んでいます。

そこから自分が使うものを選ぶと、農地面積をもとに農薬の量と希釈倍率が自動で計算されて表示されます。つまり、自分たちで難しい計算をする必要がないのです。農薬を使った日を入力すると、何日先までは出荷できないといった、当社のルールに基づいた細かなスケジュールも出てきます。

吉丸 「このシステムは、私たちが農家の生産を管理するためのものですが、農家にとって使いやすいことを一番に考えて作っています。また、およそ200の契約農家(その他野菜を含め)の中で、自分の生産量が何位に入っているかも、わかるようになっています。それによって、農家に適度な競争意識が芽生えて、やる気も高まっているようです」

さらに、農家が当社に農作物を持ち込むと、入荷システムでQRコードを発行します。食品メーカーはそのQRコードをスキャンすることで、農家と農産物の情報がすぐにわかるという仕組みです。

吉丸 「身近で安全安心な農産物を届けるというのは、ごく当たり前のことです。当社はこのシステムによって、それを見える化しています。システム自体が珍しく、これほど農家と一緒になって生産性の向上に取り組んでいる食品加工会社は、日本で他にはないのではないかと思います」 

小規模な農家に活路を! 日本や世界を見据えながら、地元に貢献したい

▲社長・吉丸栄市

2018年現在、吉丸が入社して20年が経ちました。2009年からは社長を務めています。創業以来、当社はずっと順風満帆だったわけではなく、経営が厳しい幾多の局面もくぐり抜けてきました。吉丸が社長になる前年は、過去最大の赤字となり、波乱の中でトップに就任したのです。

しかし翌年、非常に厳しい検査と条件をクリアして、大手ファーストフードチェーンで使われるフライドオニオンを受注。危機を乗り越えました。

吉丸 「父は下請けに専念すればいいという考えでしたが、私は当社や農家がかけがえのない存在になるためにどうすればいいか考えて、クラウド化など新しいことにも取り組んできました。取締役だった頃はひとりで突っ走り、振り返ると誰もいないという状況も……。もっと他の人の力を信じて、みんなでやっていかなければと痛感しました。2017年には従業員が78名になり、それぞれが力を発揮して素晴らしい仕事をしてくれて、感謝しています」

吉丸が従業員に接する上で心がけているのは、ダメ出しをしないこと。

吉丸 「私自身がたくさんチャレンジして失敗してきたので、失敗の中からしか成功は生まれないことを知っています。だから、従業員にも思いっきりやってほしいのです」

「もっと農家の役に立てるように、自分たちでも生産してみたい」という従業員の声を受けて、2016年には本社の横に大きな畑を作りました。また、当社で「バジルサミット」を開催し、生産者と納品先のバイヤー、営業などが直接交流する機会も設けています。

「小規模な農家に活路を!」。当社の方針を示す資料には、こんな言葉があります。これは吉丸の個人的な体験がもとになっています。

吉丸 「高校生のとき、私よりずっと優秀な友人がこんなことを言ったんです。うちは農家だから、大学には進学できない……。それはショックでした。私は東京の大学へ行き、彼は農家を継いだ。だから私は、小規模な農家でもきちんと儲けて、子どもを大学へ進学させられるようなサポートをしたいと密かに考えていました。当社がバジルを扱うようになってから、息子を大学へ行かせられたという声を聞き、大変うれしく思っています」

これからも私たちくにみ農産加工は、安全安心で付加価値の高い野菜と製品づくりを極めながら、かけがえのない存在になるために、新しい価値を創造していきます。そして、KUNIMIXクラウドの仕組みを広げて、私たちが農家と農作物を使いたい人をつなぐ「よきプラットフォーム」となれるように、従業員一丸となって力を尽くします。 

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