東京のIoTスタートアップがつくった福岡オフィス。トレンドが生まれる福岡市の魅力

2017年夏に開設した「MAMORIO FUKUOKA LABO」。オフィスの中心にある大きなモニターで東京と福岡を接続し、同じ場所で働いているかのような環境を実現しています。東京のスタートアップが福岡に拠点を設けることで、どんな環境の変化があったのか。その背景と福岡市という街への期待に迫ります。

スタートアップの街・福岡市との出会い

▲MAMORIO FUKUOKA LABO。スタートアップの街として福岡市に魅力を感じた

MAMORIO株式会社と福岡市の出会いは、2015年頃。MAMORIOが福岡市の工場で製品をつくるようになり、代表の増木大己も福岡を訪れることが多くなりました。仕事の面でもプライベートの面でも福岡を知っていく中で、徐々に「スタートアップの街」としての魅力に気づきはじめたのです。

福岡市では、国家戦略特区「創業特区」に指定された2014年頃から、行政が主体となってスタートアップ企業を活性化する取り組みが行なわれてきました。2017年春には、廃校になった小学校を改装してできたスタートアップ支援施設「FUKUOKA GROWTH NEXT」が誕生。地域の人々にもスタートアップが知られるようになったのを見て、増木は、同年夏、福岡に拠点を設けることを決めました。

増木「廃校になった小学校をスタートアップ施設にすると聞いた時、もう少し堅苦しい感じを想像していたんです。でも福岡市は、校舎の中にBARをつくって交流もできるおしゃれでカジュアルなスペースにしてしまった。こういう普通の行政の感覚ではできないことを鶴の一声でやってしまう福岡市に、魅力と可能性を感じたんです。
MAMORIOは『なくすを、なくす』という公共性の高いミッションを掲げているので、ゆくゆくは行政との連携を強化したいという考えもありました。行政による創業支援は、一般的に規模の小さいケースが多いんですけど、市長の言葉や対応のスピード感から、福岡市は本気だなって。その心意気に惚れました」

2017年現在の福岡オフィスは、拠点を設けたいと考えていた頃に友人から紹介されたビルの一室。ひと目で気に入って即決し、「MAMORIO FUKUOKA LABO」として東京に次ぐ第2の拠点にしました。

人件費が安いという理由で地方に拠点を持つ企業は多くありますが、MAMORIOの場合は「新しい企業文化をつくる」ということを第一に、2拠点ワークをスタートさせたのです。

メンバー10人の時に即決。早めに「当たり前」をつくってしまう

今でこそ福岡に進出する東京のスタートアップ企業はたくさんありますが、MAMORIOが福岡にオフィスを構えた当時はあまり多くありませんでした。しかもその頃、MAMORIOの東京メンバーはまだ10名程度。拠点を増やすには時期尚早ともいえる規模でした。

それでも迷わず福岡に拠点をつくったのは、「早めに“当たり前”にしてしまう」という増木の考えからでした。社内からは「東京だけでいいんじゃないか」と反対の声も上がりましたが、人数が少ないからこそ環境が整えやすいという確信があったのです。

「MAMORIO FUKUOKA LABO」というプレートを掲げたオフィスは、増木もとても気に入っている開放的でアットホームな空間です。大きなモニターで東京オフィスと常時つなぎっぱなしにすることで、画面に声をかけるだけですぐにコミュニケーションが取れる体制をつくっています。

拠点が増えることで「ログを残し共有する体制をつくる」というカルチャーも浸透するようになりました。人数の少ないスタートアップでは、どうしても業務が属人化しがちになってしまう傾向があります。それでは、ひとり欠けるだけで業務に支障が出てしまう……。

だからこそ、人数が少ないうちから複数拠点で情報のやりとりをする前提で業務体制をつくることで、業務に必要なデータやログをすべてクラウド上で管理する習慣をつくりました。これにより、誰でも遠隔で情報にアクセスできるようになり、どこでも働ける環境になったのです。これはMAMORIOの2拠点ワークスタイルを通じて得られた予期せぬメリットでした。

増木「もし社員数がもっと増えた段階だったら、『東京でやった方が効率がいい』という意見が出るだけでなく、直接聞いた方が早いからとデータやログを残さないワークスタイルが当たり前になっていたと思うんですよね。まだ会社の人数が少なかったからこそ柔軟にできたんだと思います。早めに『自分たちの会社はこういう企業文化なんだよ』としてしまえば、これから入ってくる人たちも適応しやすくなります」

おいしい食事、ラクな通勤、近い空港。福岡に拠点を構えて見えたもの

「スタートアップにとっての福岡の魅力とは」と聞かれて増木が答えるのは、意外にも日常に寄ったことばかりです。

増木「生活インフラがとにかく豊かですよね。まず、食事がおいしい 。それから家賃が安い。平均通勤時間も東京に比べて圧倒的に短いです。海も山も川もあって、生活品質が上がりますね。それから、空港が近いのも魅力です。博多駅を東京駅と仮定すると、福岡空港は上野駅くらいの距離にありますからね。事業がグローバル化していく中で、空港からのアクセスが非常に良いことは今後ますます大事になっていくと思います」

働きやすい環境を整えて社員のモチベーションを維持するという点で、増木はこうしたインフラ面の充実を大切にしています。実際に東京から移ってきた社員も、福岡で働くことへの満足度は高いようです。

MAMORIOでは定期的に福岡で開発合宿を行なったり、逆に福岡のメンバーも東京で働ける仕組みを設けたりと、普段と違う環境で仕事ができる体制を構築しています。スタートアップでは、どうしても小さなオフィスにこもりがちになってしまうことがありますが、環境を変えることで、メリハリのあるワークスタイルを実現しているのです。

また、これから成長が予測されているIoT市場においても、福岡は魅力的な都市であると言えます。

増木「IoTの世界ではどうしてもモノが介在するので、製造現場と離れた東京だけで考えていてもつまずいてしまうリスクがあります。もともと福岡には通販やEC事業を営む会社が多く、ウェブだけではなく物流やカスタマーサポートに精通した人材が多いのも魅力です。ユーザーの声を聞いてすぐにプロダクトづくりに反映するにはベストな都市と言えるかもしれません 」

さらに、期待が高まるのが「優秀な人材の確保」。かつて石炭産業で栄えた九州地方には工業系や情報系の学部や大学が多く、地元での勤務を志望する人も多いため、東京ではなかなか採用できない優秀な学生たちがたくさんいるのです。

福岡でもスタートアップの認知度が高まるにつれて、様々な若者がスタートアップの世界に飛び込んで活躍する未来に期待をしています。

福岡からトレンドが生まれる。その前例をつくりたい

▲東京と福岡をつないで仕事をする様子

「なくすを、なくす」というミッションを達成するために、MAMORIOが福岡市というフィールドを舞台にこれから力を入れていきたいのは、「なくしもののない新しい世の中」 をつくるための社会実験です。

「東京では人口規模が大きすぎてすぐには実現が難しいことも、コンパクトシティである福岡市では簡単にスタートできる」と増木は語ります 。

利用者が多いほど、カバー範囲が増えてなくしものが見つかりやすいというMAMORIOの性質上、福岡市のようなコンパクトな街は、製品の機能や成果を確かめるのに適した規模です。実際に福岡市ではMAMORIOユーザーが着々と増えており、盗まれた自転車が見つかったという人もいます。

忘れ物や落とし物は誰でも経験のある社会課題のひとつ。さらに踏み込んで課題を解決するためには、交通機関や警察、行政との連携や協力は必要不可欠です。

スタートアップの感覚を理解してくれるという意味でも、国家戦略特区に指定された福岡市は、ずば抜けていると増木は考えています。行政のサポートを通じて実験や事例をつくることができれば、ほかの都市に持ち込んでも話がしやすい。事業を拡大していく最初のステップとしても福岡市に期待しています。

増木「今までは流行といえば東京から生まれるのが当たり前でしたが、福岡は新しいものに寛容な若い人たちが多く、キャッチアップも非常に早い。これからは福岡からトレンドが生まれることも多くなると思います。そういう環境をつくっていきたいですね」

スタートアップのトレンド発信地としての福岡で、MAMORIOがその前例になるーー。そうした想いを胸に、今日も東京と福岡のオフィスが一丸となって、「なくしもののない未来」を考えています。

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