福祉の概念から脱却し、利益を上げる──戦力化に徹したソーシャルオフィスの立ち上げ

2019年現在、国内の労働人口減少に反比例するように、障がい者の数は増加している。法定雇用率が定期的に引き上げられているにも関わらず、雇用に踏み出せない企業も少なくない。そんな中、人材活用のプロフェッショナル高橋 雄三(たかはし ゆうぞう)は「戦力にするための」雇用を目指した。その方策とは。

法定雇用率の壁に立ち向かう、人材屈指のプロが打ち出した方策とは!?

▲人材雇用と活用のプロフェッショナル高橋。首都圏本部の店舗展開を手掛けてきた

障がい者の雇用は、すべての企業に義務付けられていることをご存じだろうか。障害者雇用促進法に基づき、企業は労働者の人数に応じて障がい者を雇用する必要があるのだ。雇用する人数割合は、法定雇用率で算出される。

その法定雇用率を達成していなければ、事実上の罰金である納付金を支払わなくてはならない。企業が雇用しなければならない必要人数は法定雇用率の2.2%。雇用できない場合、社員数200人を超える企業では、不足数1名に対し月額5万円の納付金支払となる。

たとえば1,000人規模の企業でひとりの雇用もしていない場合、22人の不足で納付金は年間1,320万円。当然、1度の納付で終わるわけもなく、雇用しない限り永久に続く。企業のCSRとしても大きな打撃になる。

しかし、この法定雇用率が達成できていない企業が意外にも多いと高橋は語る。

高橋 「多くの企業は雇用したくてもできない環境にあります。その理由は、受け入れる部署の体制が整ってなかったり、一連の業務から簡易的な業務を切り出せなかったり、採用の基準を満たした人材が集まらなかったりと、さまざまです」

かつて綜合キャリアグループでも同じように、雇用の課題に面した。そこで高橋は、グループの未来を担う基幹店舗を立ち上げてきたプライドにかけ、この問題に真っ向から立ち向かった。

高橋 「今から 8年前のことですが、当時綜合キャリアグループは急激な成長期にありました。全国展開にともない、次々に新規店舗を開設し、雇用する社員は派遣社員を含め 1年で数百人ずつ増加しました。
そんな状態で法定雇用率を満たすことは難しく、納付金を支払うという事態に陥ってしまったんです」

本来、支払わなくても良い納付金を払わなければならない──。

当時、綜合キャリアオプション首都圏本部の責任者をしていた高橋は、度重なる行政対応をする中で、自責の念とグループのCSRが損なわれることへの恐怖心に悩まされていた。

雇用の課題はソーシャルオフィスで解決! 社員を戦力にするサービス

▲トラストのソーシャルオフィス。メンバーが活発に活動する

一刻も早く障がい者を雇用する必要がある──しかし良い人材をひとりずつ採用し、受け入れ可能な部署に配属していくようなスピードでは到底間に合わない。

そこで高橋は、一度に多くの雇用ができ、会社にもメリットをもたらすことができる事業を立ち上げたのだ。

こうして2012年2月、綜合キャリアオプションの特例子会社となる、綜合キャリアトラスト(以下「トラスト」と称する)が設立された。

トラストは手始めに、綜合キャリアグループにてソーシャルオフィスの運用を開始した。

ソーシャルオフィスとは、障がい者で構成された専門チームが会社に利益を上げるための業務を行う、トラストのアウトソーシングである。

高橋はソーシャルオフィスの立ち上げにともない、長野甲信越本部の事務フロアの一角に専門チームの所属部署を設置した。

グループの各部署から切り出した簡易業務を引き受けられるように、チームの体制を整えたのだ。

高橋が職場の一角にソーシャルオフィスを設けたのには、理由があったという。

高橋 「障がい者の子を持つ親御さんが、自分の子どもが働く職場が会社と隔てられ、看板もないような場所だったらさぞ落胆されるでしょう。心の中では健常者と同じ職場で働いてほしいと思うはずです。なので親御さんの気持ちを考慮して、チームのメンバーには会社に通勤してもらうようにしました。職場では一角をパーテーションで区切り、職務スペースや執務室として勤務してもらいます」

細心の心配りで、働く本人だけではなく家族をも思いやるソーシャルオフィスの運営をする──そんな高橋の強い想いは、チームメンバーの親と面談する機会を経たことで、間違っていなかったのだという確証を得る。

高橋 「メンバーの親御さんが、『子どもをこんな立派な会社で働かせてもらってありがとうございます』と涙ながらに話されたんです。これで子どもが働いている会社を知人に言うことができると、とても喜んでおられて」

高橋はそのとき、自分のことのように嬉しく思った。

高橋 「しっかりした会社でちゃんと働いているのだと、胸を張って子どもを自慢できるという親御さんが本当に嬉しそうで、私も嬉しくなってしまいましたね」

比類なきトラストのHR技術! ソーシャルオフィスの全容を明かす

▲ジョブサポーターがチームメンバーのライフサポートやメンタルサポートをする

トラストのソーシャルオフィスでは、アウトソーシングできるような業務、簡単なデータの入力や封入作業、社内便の振り分けといった簡易的でボリュームのある業務を引き受けた。

また、チームでは成果と、業務の納期を設定した。

高橋 「仕事に目標を持つことは本人のモチベーションアップにもなりますし、職業人としての考え方のトレーニングにもなります」

トラストのソーシャルオフィスは功を奏し、グループの拡大にともない雇用人数も増加。各部署からの依頼される業務量も増え、できる仕事の範囲も広がった。それからほどなくして、トラストは綜合キャリアグループの法定雇用率を60人の雇用で達成したのだ。

かつての高橋のように、障がい者の雇用に頭を悩ませている企業は多い。

──そう考えた高橋は、このしくみが、他の企業にも同じように展開できるだろうと、雇用で悩む大手企業へソーシャルオフィスを提案。

大規模なサービス提案であるためすぐに受託につながらなかったが、熱心に訪問提案する高橋に、次第に企業担当者は耳を傾けるようになった。

そうして数カ月後、とうとう大手企業の受託が決まる。

高橋は先の自社ソーシャルオフィスと同様に雇用の課題を洗い出し、採用からチーム編成、人材活用までの解決策をケーススタディとして取りまとめ、企業担当者と運営サイドへ共に共有した。

高橋 「一番心配したことは、障がいを持つ人と同じ職場、同じフロアで働くことで、既存の社員が不安になると企業側が懸念することでした。その課題に対しては、オフィスの一角をパーテーションで区切り簡易業務を切り出すことと、チームの仕事や生活のサポートをするジョブサポーター(常駐支援者)を設置することで解決しました」

とくにソーシャルオフィスではジョブサポーターの役割が重要になる。

高橋 「ジョブサポーターはメンバーの職場環境を整えたり、成果を上げるためのマネジメントをしたりします。具体的には、業務指導や健康管理、メンタル面のサポートなどです。適正なチームの運用と、継続して働ける職場の維持をしています」

ジョブサポーターの運営は、他にはないトラストのHR技術となった。

福祉の分野で対価を得る! 企業の利便性を追求したソーシャルオフィス

▲福祉の概念を脱却する。高橋の信念は強い

高橋は、「忘れてはならないのが、トラストのソーシャルオフィスは、数合わせ的な雇用が目的ではないこと」だという。

高橋 「私たちが目指す障がい者雇用とは、企業が自社で雇用し、会社の戦力にするために行うものです。本当に会社が必要な業務を、目標を持って遂行し成果を出してもらう。そうすれば社員がコア業務に集中することができ、残業時間、業務に携わっていた人員、そして外注費の削減になります」

そして、企業のメリットは「きちんと戦力になる存在」を得られることにとどまらない。

高橋 「雇用にかかるコストに対してトレードオフが成立し、会社全体の生産性が向上します。企業の CSR、ダイバーシティとして、自社で雇用しているメンバーの活躍を取り上げることも可能です。当然、法定雇用率は達成します」

目指す雇用環境を整えていくと、自然とソーシャルオフィスで働く人々の意識にも変化が生じるという。

高橋 「ソーシャルオフィスで長期的に勤務しているチームメンバーは、ジョブサポーターの支援がなくても、職業人として考え方の基盤ができて、チームのリーダー的存在になっていきます。
さらにスキルアップして、健常者の部署に配属されたり、より高いスキルが必要な部署へ配属されたりすることもあるんです」

職場でのキャリアアップは、チームメンバーの働く意欲や自信につながり、今後の働き方や人生に多大な影響を及ぼす。

さらに今後の展開として、このソーシャルオフィスをより多くの企業でオペレーションし、人材不足で悩む日本の企業の雇用問題を打開したいと高橋は考える。

そして、ソーシャルオフィスが雇用する人材は、トラストのジョブサポーターのもと、会社の戦力となる技術と職業観を養う。

──まさに企業、障がい者、トラストの3者間でwin-winの関係性が生まれるのだ。

高橋 「初めてソーシャルオフィスを立ち上げたとき、暗闇で目の前が絶壁かもしれない──という、これまでにない不安や恐れがありました。ですが、それだけではなくて、同時に自分で新しい道を切り開いていくという胸が躍るような楽しさもありました。
今後、トラストのソーシャルオフィスがどんな形に展開しても、『会社に利益をもたらす戦力にするための雇用』という理念だけはぶらさないように、福祉の分野で先陣を切っていきます」

高橋は、障がい者を特別扱いするのではなく、目標に対する結果を出すための手助けをしている。

企業と障がい者がひとつの事業を成し遂げる“パートナー”として、一緒に働く未来を切り開くために──高橋が想い描くトラストのソーシャルオフィスは、今後さらに進化を遂げる。

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