アジアでの現場経験を糧に、これからは支える立場として。新事務局長就任にかける想い

NGOシャンティ国際ボランティア会(以下、シャンティ)は、2021年に40周年を迎えます。同団体はアジア各国の目まぐるしい変化のなか、団体のミッションである「共に生き、共に学ぶ」ことのできる社会の実現に向け、2019年7月に新たな事業戦略を発表しました。その大きな変化のひとつとして、シャンティ初の女性事務局長就任した山本英里を紹介します。

幼少期の疑問が、さまざまな出会いを経て、今につながっている

▲シャンティ国際ボランティア会 事務局長 山本英里(やまもとえり)

2019年7月、シャンティの事務局長に女性として初めて就任した山本英里(やまもとえり)は、大学院卒業後以来シャンティの活動に携わり、世界各国で支援活動を行ってきました。

そんな山本ですが、最初から『国際協力』に関心があったのではなかった、と話します。

山本 「幼少期から両親の仕事の関係で、周囲に障害を持つ人々がいる環境で育ちました。そこで『なぜ障害を持っているとコミュニティの中で生きにくいのだろう?』と漠然とした疑問を抱いていたんです。そのころに『きっと、社会構造に課題があって、不平等を生み出しているのでは』と問題意識を持ちました」

その問題意識から、山本は大学で福祉学部を選び、“知的障害児が地域でどう生きるか”をテーマに学びました。

ちょうどそのころ、山本にひとつの転機がありました。大学時代に福祉関係のボランティアに取り組んでいたことから、アジア太平洋地域のソーシャルワーカー協会が開催したタイでのシンポジウムに参加したときのことです。

山本 「シンポジウムで、日本国内の課題とアジアにおける課題の大きなギャップを目の当たりにして、本当の意味での “貧困 ”や“差別”がどういうものなのかを知らなければいけない、と思いました」

シンポジウムに参加したあと、バックパッカーとして、タイの少数民族が住む北部の山岳地帯に訪れた山本。その山岳地帯で貧困の現状を目にし、少数民族が尊厳や文化・習慣を守りつつ、貧困を脱却するということはどういうことなのかを考え始めたそうです。

社会構造への疑問から、貧困問題への問題意識、そして少数民族の文化・伝統を守りながら貧困を脱却する術とは……。幼少期から漠然と抱いていた社会構造への疑問の焦点を定めていった山本は、大学卒業後、さらに学びを深めたいと、イギリスの大学院に進学します。

やがて大学院卒業後、「現地の状況を自分の目でしっかり見てみたい」と思った山本は、“子どもの貧困”をキーワードに、現地で受け入れが可能な団体を探しました。そんなときに見つけたのが、シャンティのバンコク事務所におけるボランティア募集だったのです。

変化する社会の中で、変わらないことを地道に続けることの難しさ

▲2004年、アフガニスタンでシャンティの運営する「子ども図書館」で子どもたちと。アフガンスタンでは初であった図書館活動の開始で、子どもたちの反応を見るために毎日子ども図書館に通っていました

シャンティのバンコク事務所でのボランティアに応募した山本に、おもがけない試練が待ち構えていました。

山本 「まず言われたのが『スラムに自力でたどり着いたらいいよ』ということでした。この日のこの時間に待ち合わせ、というところまでしか決まっていなくて、たどり着けたら第一関門突破。受け入れる側としては、生半可な気持ちで来られても困る、という意図だったと思うのですが、スラムでの住所は一般的に地図に明記されていなかったので、今でもずっと覚えていますね。」

無事に待ち合わせ場所にたどり着き、ボランティア活動を開始した山本でしたが、バンコク事務所で活動を開始して半年経ったころ、2001年9月11日アメリカ同時多発テロが起こり、国内情勢が悪化していたアフガニスタンへ向かうことになりました。

山本 「当時、アフガニスタンの復興に向けて日本政府が支援を表明して、ユニセフ主導で“Back to School(学校に戻ろう)”という大規模キャンペーンを実施することになったんです。そこに日本のNGOが関わることになり、シャンティからも人を派遣することになり、その一員として、ユニセフのアフガニスタン事務所に出向しました」

ユニセフへの出向が終了したあとも、山本はそのままシャンティのアフガニスタン事務所開設のために、2003年から6年ほど同国の活動に携わってきました。その活動は難民の子どもたちへの緊急支援や、学校建設と図書館活動を中心とする教育支援事業など、多岐に渡ります。

その後もミャンマー(ビルマ)難民キャンプやカンボジア、ネパール、そして2017年からは東京事務所で各国事務所の活動を支えることに尽力してきた山本ですが、これまでで一番大変だった時期は、アフガニスタン時代に事務所を立ち上げたときだったと語ります。

山本 「治安も悪く、全てがゼロからのスタートでした。それに、女性でいることの制約がとても大きく、カルチャーショックでもあり、活動を進めていく上で難しい場面が多かったです。現地で関わるのは、ほぼ男性ばかりで、男性社会でやっていかないといけない。でも、だからこそ女性が入っていく必要性があると思いました」

シャンティのアフガニスタン事務所には、女性の現地職員も働いていますが、そもそも女性が働きにでることすら反対を受ける場面が多く、まだまだ女性の学ぶ機会や社会進出の機会は十分であるとは言えません。

山本 「教育を一切受けてこなかった子どもたちと接するなかで、貧困問題や社会構造の解決に向けて、当事者が知識を得て選択をしていくことの重要性を実感しました。長期的に課題を解決するためには、やはり教育が必要不可欠であるということが、アフガニスタンにいるときに腑に落ちたんです」

しかし、シャンティが取り組む教育支援は人の成長とともにあり、一朝一夕で成果が出るものではありません。そこには続けることの難しさがあると山本は話します。

山本 「教育支援は時間がかかり、とても地味な作業が必要なんです。建設や物資提供などとは異なり、成果がすぐに目に見えません。現地で支援を受ける側、支援する側も含め、教育に関する支援への共通理解を生むことが難しいのが現状です」

やりがいは、長く取り組むなかでだんだんと花開く活動成果

▲2015年、ネパールでの緊急援助で、学校の再建に関わる活動を行いました。時に数時間歩き、インフラの整っていない生活環境での生活の中で自分の原点を見つめなおすことができました

成果が目に見えにくい教育支援に取り組むなかで、山本の支えとなっているのはなにか。

山本 「現地で活動していると、まったく本を読んだことのない子どもたちや学校現場で新たな手法を身に着けた先生たちの表情と目の輝きが、どんどん変わってくるのが見られるんです。人が力をつける、ということを目の当たりにすることが支えになりますね」

あと、教育支援活動は、時間が経つと想像していなかった新たな発見や成果が花開くことがあります。先人たちがシャンティでの活動に長く取り組んできたことで、何年も前からやってきたことの成果が徐々に見えてきて、改めてやりがいを感じていますね。

活動を始めて 5年目ぐらいのころは、苦労して取り組んでも成果がなかなか実感できず、つらかったのを覚えています。でも 10年、 15年経つと、支援してきた学校や教育の現場での予想を超える成果が見えてくることもあり面白いです。それはこれから経験を積む職員にぜひ伝えていきたいですね」

活動の継続には、山本のなかで特に印象に残っている、アフガニスタンで出会った男の子との出会いがありました。

山本 「保護施設から逃げてきた 10歳ぐらいの男の子でした。犯罪を繰り返しながらモスクで寝泊まりしたところ、モスクの方から連絡があって、昼間はシャンティの子ども図書館に来るようになったんです」

その子はやせ細っていて、顔つきもきつく、初めは他の子どもたちとも馴染めていなかったそうです。しかし、昼間はとにかく図書館に来るようになり、遠巻きにただ絵本や紙芝居のお話を聞いて、モスクへ帰っていくという日々が続いていたといいます。

山本 「そんなある日、彼がお話を聞きながら、すやすやと本当に子どもらしい表情で安心して眠っていたんです。そこから少しずつ顔つきも変わっていって、図書館の職員に話をするようになっていきました。最後は、もう家に帰ります、といって図書館に訪れることはなくなったんですが……」

山本は「紛争地や貧困状態においては、子どもが子どもでいられる居場所が限られている」と言います。

山本 「私たちにできることは、絵本を読んであげるなどの活動を通して居場所を提供するしかないんですが、このことが子どもに与える影響を目の当たりにしたような気がしてました。その一方で、おとなとして、子どもたちに対してできることはまだまだあるんじゃないかと、彼のことを思い出して、今でも考えています」

海外での経験を生かして、これからは活動を支える立場に

タイ、アフガニスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパール…。そして緊急支援先も含めると全6ヵ国、シャンティの活動のほとんどを海外で取り組んできた山本ですが、2019年7月の事務局長就任にあたり、シャンティとしての発展と継続を組織運営の軸に考えています。

山本 「これまでずっと海外の現場で活動してきましたが、これからは各国の活動を支える東京での役割を全うできればと思っています」

シャンティが現場で事業を実施する上で大事にしてきた価値や、人との関係性に基づいたアプローチによって、成果が徐々に各地で出てきています。山本はシャンティらしい人々に寄り添い、草の根レベルで共に社会課題を解決する同士として切磋琢磨していくアプローチの大切さや、私たちがこれまでやってきたことを、より多くの方々にご理解いただきたいと考えています。

山本 「教育支援は時間がかかる取り組みで、一度途切れるとゼロからのスタートになってしまいます。途切れないためには組織力の強化も図っていきたいと考えています。

シャンティとしては初めての女性事務局長ですが、組織を運営する上で、女性だから、男性だから、ということはあまり関係がないと思っています。一方で、女性職員が多いので、女性が NGOで仕事を続けていける環境を、国内だけではなく海外も含めて、整えていけたらと思います」

変化する社会に柔軟に対応していく事は重要ですが、一方で、変わらず地道に続けることも必要。その難しさを実感しているからこそ、その先に、想像していなかった景色があると山本は話します。シャンティはこれからも全ての人が自分らしく生きることができる社会を目指して、新たな一歩を新たな体制で踏み出します。

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