知的好奇心とチャレンジがブランドをつくる──DEAN & DELUCAのブランド哲学

食の感動や食卓に関わるアイテムを通じ、食にまつわる幸福の在り方を伝える「DEAN & DELUCA」。洗練されたブランドの背景には、どのような想いや狙いがあるのでしょうか。ディーン&デルーカ事業部のブランド統括を務める田中大資が、営業、物流、商品を経験したキャリアとともに、ブランドビジョンを語ります。

食と知識を追求して出会ったDEAN & DELUCAの衝撃

▲ディーン&デルーカ事業部 ブランド統括の田中大資

ディーン&デルーカ事業部のブランド統括を務める田中大資のキャリアの原点は、コーヒーでした。学生時代にアルバイトで経験したバリスタの業務に心引かれ、コーヒーの世界にのめり込むことに。やがて、その興味は一歩先の探求心へと変化していきます。

田中 「一般的にまだバリスタという職業も浸透しておらず、コーヒーの産地や銘柄に関する情報も極めて入手しづらい状況でした。市場では大手コーヒーメーカーの影響力が強く、その一方でローカルでは昔ながらのこだわりの喫茶店がある、という両極端な状況だったと思います。
私はコーヒーについてより多くを知るために、まず自分の視野を広げることから始めようと思いました。そこで、もともと好きだったワインの世界に興味を持ったんです。ワインは、ぶどう品種、産地や生産者など、情報と制度が体系化されており、味を表現する語彙も豊かでした」

コーヒーの仕事をしながらワインスクールに通い、独学を始めた田中は、やがてワインが食文化そのものに結びつくことを知ります。

田中 「ワインに欠かせない視点として、料理との相性があります。その料理が親しまれてきた文化や歴史を知ることで、ワインはよりいっそう楽しめるんです。その奥深さに引かれ、私の興味はさらに広範な『食』そのものへとシフトしていきました。
その関心からレストランに勤めようと職場を探していたころ、偶然出会ったのがオープンして間もない DEAN & DELUCAの六本木店です。そのとき購入したお惣菜がとてもおいしくて、ショーケースや店内ディスプレイの華やかさ、演出から DEAN & DELUCAのブランドを感じ取ることができました。ただただ、感動したのを覚えています」

タイミング良くDEAN & DELUCAの求人が出ているのを見つけ、すぐさま面接を受けることに。

田中 「当時は創業して間もないベンチャー気質の会社だったということもあり、自分がやりたいと思ったことに関わっていけそうな環境が魅力的でした。私は安定して働ける場所よりも、何が起こるかわからない挑戦的な日々が好きです。その方が自分も成長できますし、おもしろいですから」

接客から営業、流通へと転じ、企業全体を俯瞰する立場へ

▲イタリアバイイング出張時のワンシーン

販売スタッフとしてDEAN & DELUCAに入社した田中ですが、わずか3カ月で営業部へ異動します。

田中 「驚きましたが、会社全体を見渡すことができる業務は、これまで経験したことがなかったので楽しみでした。自分で望んで得られる機会ではないですから、チャンスだと感じました」

そこから約4年間の営業部時代を通じ、田中は店舗支援、採用、計数管理など、一般的な営業としての範囲を超え、他部署と連携する業務も任され、事業のしくみを学んでいきます。

そして2011年、営業としての仕事を一通り経験したことで、あらためて原点となるワインに携わりたいという想いを伝え、商品部へ異動します。

田中 「DEAN & DELUCAのセレクトには、ブランドの深い理解と幅広い商品知識が必要です。そして、日々自分なりに感性を磨き続ける必要があります。その一方で、取扱商品数や店舗数の増加により、業務全般としてはとても複雑になってきており、そこに疑問を持っていました。
みんなの意見を聞き、帳票の共通化や手順の整理などを進め、効率化を図りました。この場面では、営業部での経験を活用できたと思っています」

商品部の内部改革に力を入れるかたわら、2012年、部内の貿易担当者のポストが空きました。これを機に、田中は自社で運用する貿易管理業務にも挑戦し始めます。

田中 「営業時代に国内物流は経験しましたが、海外輸入は未経験でした。これはまたひとつ学ぶチャンスがきたと捉えました。海外は商習慣が違いますし、それぞれの生産者をちゃんと理解するまでは大変でした。イタリアの取引先が、お願いしたボトルと別のボトルに入れてくるなんてこともしょっちゅうでした。あってはいけないことですが、事故対応などシビアな部分でも学びが多かったです。
何より、それまでは貿易担当を通じてしかオーダーしていなかった商品について、自分が生産者とコミュニケーションを取りながら進めていく。食を通じた感動の原点を、海外の生産者から直接受け取ることができるこの業務は、とても貴重な経験でした」

物流の奥深さに魅せられた田中は2015年からは物流への知見をさらに深めるべく、ウェルカムグループ内の複数ブランドの物流業務を担う部署へ、自ら異動を希望しました。

田中 「流通業の根っこの部分を学ぶことで、商品が生産現場から店に入るまでのすべてを理解し、コントロールできるようになりたかったんです。企業の目標のひとつは利益を生み出し、健全に成長を続けることです。
そのためには、インフラの整備や効率化は極めて重要だと感じて。商品部がブランドの魅力や生産者の想いを表現することに集中させるためにも、私はコスト管理やシステムの刷新を重点的に進めることで、ビジネスとして持続させるベースをつくろうと考えました」

ブランドとしてのDEAN & DELUCA、それを育むためのバランス調整

▲六本木店のワイン売り場

さまざまな業務に挑戦し、それぞれの立場で意欲的に未知の経験を選んできたキャリア。その積み重ねの結果、DEAN & DELUCAのブランド統括になった2019年現在でも、田中のスタンスは基本的に変わっていません。

田中 「現在、DEAN & DELUCAのブランド責任者は総料理長と私というふたり体制になっており、私は商品部の責任者も兼務しています。私のミッションは、ブランドとしての価値を高めること、そしてビジネスとしての効率を上げていくことです。
DEAN & DELUCAという巨大な船の舵を取り始めてあらためて思うのは、おのおのが持っているクリエイティブな個性を生かすために、チームとしてスムーズに連携できるように組織を整えること、環境を整えることが大切だと感じています」

スタンスは変わらないものの、商品部責任者からブランド全体の責任者となった今、見えている範囲は大きく変わりました。田中が常々意識していることは、『バランス』です。

田中 「 DEAN & DELUCAという船がどのようなスピードで進むのか、ウェルカムグループとして目指す方角とズレがないかを確かめながら、各部署の責任者の意見をバランス良く調整していくのが私の役割です。コミュニケーションを取るときは、できる限り偏らないよう、俯瞰的な目線で考えるよう注意しています。バランスという点では、ブランドとお客様の距離感というのも意識しています。
判断基準として、お客様にとって良いことが最優先である一方で、ブランドを継続するためには、自分たちのこだわり、フィロソフィーというものをしっかり守らなければいけません。なぜなら、お客様がブランドに対して持ってくださる期待に応えるためにも、われわれとして守るべきもの、譲ってはいけないことがあるのです」

DEAN & DELUCAは、人々の感性を刺激する世界中のおいしい食べ物を集め、食するよろこびをお伝えする食のセレクトショップとして、ライフスタイルを提案し続けています。その根幹には、ひとつの考えがあります。

ブランドを伝える表現手法を拡張し、胸を張って働ける環境を築きたい

▲千駄ヶ谷にあった旧オフィスでの記念撮影
田中 「 DEAN & DELUCAは単なる小売業ではなく、ひとつのプロジェクト、食の持つ可能性や美しさを伝えるための活動だと考えるようになりました。食の可能性を広げるためには、生産者とわれわれメンバー、そしてお客様と一緒になって、新しい挑戦をし続ける必要があります。ディーンアンドデルーカの世界観を体感できる場所として店舗は最も重要ですが、それだけではなく、表現の幅を今後よりいっそう広げていきたいと思っています」

DEAN & DELUCAというプロジェクトの可能性を示唆する一例として、“学校”があります。

田中 「料理教室は今でも不定期で開催していますが、学校をつくったりしたいね、という話はよく出ます。 DEAN & DELUCAにはさまざまな領域のプロフェッショナルが集っていますから、そのノウハウをお客様に惜しみなく伝える場があっても良いのではないかと考えています。私たちが伝えたいのは、食の美しさや、食を通じたさまざまな感動です。
それを伝える手法は、決して小売りに限定されるものではありません。DEAN & DELUCAというブランドの軸はしっかりと持ちつつ、表現の手法は柔軟に。私たちが提供する価値を本当に『豊かだな』と感じてもらうためにはメンバー一人ひとりの気づきが表現になり、それが店先に表れる。それを実現できる状態でありたいですね」

メンバー一人ひとりの想いが表現できるチームであるためには、社内環境に対する課題にも取り組んでいく必要があると田中は考えています。

田中 「就労環境の整備なども、今後積極的に取り組んでいかなければならないひとつの課題です。ブランドを育てることに集中するあまり、作業コストやリソースを度外視した業務体制が生まれてしまう環境は避けなければなりません。
また、みんなが胸を張って働ける仕事場であることも、プロジェクトの中の大切な要素です。SDGsの取り組みについて、メンバー同士で話をしており、社会に対してどう向き合うべきかも考えています」

DEAN & DELUCAは、さまざまな挑戦を続けることで、ブランドを育んできました。田中はその中で訪れる変化をチャンスだとポジティブに受け止め、自らの血肉にしてきました。変化を恐れず前向きなマインドセットがあるからこそ、DEAN & DELUCAという巨大な船の船長として方向を見失わず舵を取ることができるのです。

持続性のあるブランドでありながら、安定は求めない。その挑戦する心こそ、DEAN & DELUCAの未来をつくり上げる熱量そのものです。食本来の美しさをすべての人へ伝えるこのプロジェクトの挑戦は、まだ始まったばかりです。

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