『感性の共鳴』でつながるウェルカムグループという船団──持続性を生み出す組織の在り方

食を中心としたDEAN & DELUCAをはじめ、デザインのGEORGE'SやCIBONEなど、食とデザインというふたつの軸で事業を展開するウェルカムグループ。2016年のグループ統合時に掲げたミッション『感性の共鳴』に込められた想い、その背景にあった困難、そして今後のビジョンをグループ代表の横川正紀が語ります。

「感性の共鳴」は持続性のあるブランドやグループのカルチャーを支える

▲ウェルカムグループ代表の横川正紀

ウェルカムグループは、DEAN & DELUCA、GEORGE'S、CIBONE、TODAY'S SPECIALなど、食とデザインのふたつを軸にしたブランド運営や、コンサルティングなどさまざまな事業を展開しています。

ウェルカムグループが考える自分たちの使命、つまりミッションは、「感性の共鳴」。2016年に誕生したこの言葉の根底には、横川が大切にする価値基準がありました。

横川 「私は数字で測れることや論理的・理性的な価値をサイエンス、逆に数字では測りにくい直感や感性をアートという価値で分類しています。組織運営やビジネスではサイエンス的な意見が優先されがちですが、個々から生まれるアート的な価値による判断も重要です。
私は、すべてのプロジェクトの発端はいわゆるアート的な思想や直感的な好き嫌いから生まれるもので、それを持続させていくためにサイエンスの領域から戦略を構築する必要があると考えています。いずれも事業展開には必要なものですから、短期的な結果を重んじるあまりアートの部分をおろそかにしないよう心がけています」

事業を継続的に成長させるためにもアートの部分を大事にしたいというこの想いは、グループのメンバーとブレストを重ね、「感性の共鳴」というミッションに集約されていきました。

横川 「感性というと優れたセンスなど、特別な人が持つイメージがあるかもしれませんが、私たちが考える感性は、より日常的な『これいいね!』という直感です。
たとえば何かのデザインや、食べ物、そのつくり手に対して『いいね』と感じたら、共鳴した自分自身がそれを周囲に薦める。そうすると、またそれに共鳴した人がさらに別の周囲に対して熱心にそれを薦め始める。
感性は自然の力で拡がっていくものだと思うので、私たちの仕事は感性がギュッとつまったきっかけをつくることなんです。そんなふうに皆さんの感性である『いいね』が伝播していく様子を言葉に表し、私たちのミッションはできあがりました」

感性の共鳴は、熱量の伝わり方で変化します。何かを伝えたい人が熱量高く、真摯に向き合ってじっくり伝えようとすれば、それが伝播してもなかなか熱は冷めません。

横川 「たとえば、電子レンジは短時間で一気に温度を高めますが、すぐにその熱は冷めますよね。一方、オーブンだとじっくりと時間を使いますが、長時間熱い状態を保つことができます。
私はたとえオーブンのように時間がかかっても、その人の感性が熱いまま伝播していく、プロセスも大切にしたいんです」

共鳴から生まれた事業とエネルギーが困難の時を救った

▲DEAN & DELUCA 日本1号店となる丸の内店

これまでの道のりを振り返ったときに、横川が「感性の共鳴」の重要性を感じたひとつがDEAN & DELUCAのライセンスにまつわる出来事でした。

2002年から日本展開が始まったDEAN & DELUCA事業。ライセンスの更新となったとき、事業に関する考え方で本国とギャップが生じました。

横川 「 DEAN & DELUCAは、『食本来の美しさ』をより多くのお客様に伝えるため、それまで全力で進めてきましたし、今後もそのスタイルで続けていきたかったんです。
でも本国は、とにかくビジネスとして拡大をさせていきたいという方針で、日本における DEAN & DELUCAの将来を一緒に描ける状態ではありませんでした」
横川 「私の中でも葛藤がありましたし、社内でも徹底的に議論を重ねました。でも最終的には、DEAN & DELUCAは来てくださるお客様と、関わってくださるつくり手の皆さん、そして何より一緒に働くメンバーみんなのものであると。だから『誰と何をしたいか』という想いを重視すべきだという話になりました。
お客様、つくり手、メンバーの想い、まさに『感性の共鳴』に基づいた判断をするべきだということです。その話が社内でできたときに、自分たちがやるべきことが見えました」

結果、2016年には日本国内における営業権および商標権らのすべてにおけるライセンスを、事実上100%取得しました。

横川 「 DEAN & DELUCA日本展開当初から、メンバー一人ひとりの『こうありたい』『これが好き』という想いを表現してきました。そこが起点となって感性が伝播していった原体験があったからこそ、強い気持ちを持って今も事業を展開できているのです」

メンバーのほとんどは、お客様としてブランドを体験し、その感性に共鳴し集まっています。カフェやショップなど近い業種での業務経験よりも、ミッションやビジョン、価値観を大切にすることでグループの結束力は強いものとなります。

横川 「ラグビーの日本代表にたとえるとわかりやすいかもしれません。一人ひとりの体格やスキル、チームとしての成熟度を見れば勝ち目がない勝負も、日本代表はチームの結束力で勝利を引き寄せました。そういう一体感って、とても強い武器ですよね。
実は自分自身も学生時代にラグビーをしていたのですが、ラグビーはどんな選手もそれぞれの強みを生かすポジションがあるスポーツなんです。体格の良し悪しやスピード、身長などの個性を、それぞれの役割でまっとうできます。お互いがその強みを認め合い、違いを認め合ってひとつのチームをつくります。
私たちの事業も同じです。料理人やバリスタ、パティシエだけでなく、アパレル業界や保険業出身者など経歴も多様で個性の強いメンバーがたくさんいますが、お互いがその違いを認めて、生かし合って生まれた一体感をエネルギーにしているんです」

困惑の時を経てグループは統合から結合へ──しなやかな「船団」になった

▲2015年グループ統合キックオフでのワークショップ

個性豊かなメンバーが集う多様性の裏側には、違いが生み出す凹凸があります。その一面が強調されて波紋を生み出すことになってしまったのが、2016年のグループ統合でした。

横川 「それまで各ブランドに対して平均的なことは求めない、それぞれの個性を大事にすると言っていたにも関わらず、私がより強い組織を目指すためにグループ統合すると判断したことで、メンバーは戸惑いました。
『感性の共鳴』を主軸にグループとしてのミッションや方針、社内ルールを統一し、研修や、より良い関係性を築くための交流会を実施したんです。ところが、ブランドごとに規模の大小があり、取り扱っている商品も異なるグループの中で、統合に対して一部のメンバーからは不安の声が上がりました」

メンバーの声から気付きを得た横川は、わずか1年後にグループ統合を『結合』と表現し直します。失敗したことをメンバーにも伝え、再び大きく舵を切り直します。

横川 「一度判断したことを、また変える。すぐに組織は変われませんので、不安が残りました。今振り返れば、そのときがグループ最大の危機だったかもしれません。
そうした決断を取らざるを得なかったことを、経営者としてかっこ悪いと感じます。けれど、私たちは成長のためにオープンであることを大事にしています。そこはトップであってもオープンに伝え、すぐに良い方角に舵を切ることで挽回する以外方法はありませんよね」

しかし、それぞれのブランドが築き上げてきた個性やカルチャーは生かしながらも、経営の観点ではグループ全体のまとまりが必要不可欠でした。

その両立を目指した結果、ウェルカムグループを表現する言葉として生まれたのが『船団』でした。

横川 「われわれの考える船団は、船の大きさによってエンジンの大きさも変わりますので、速度も動きもそれぞれで構わない、蒸気船もあれば手こぎボートのような船もあります。ただ、おおむねの進路は統一しています。北の方向に行こう、嵐のときは寄り添って、天気が良くなれば、それぞれが進みやすいように、もう少し拡がって自由に進むべき方向を目指せばいい、というふうに。
グループ統合は、たとえるならば一隻の大きなタンカーにみんなで乗ろうという感覚でした。この船団という言葉の表現で、ブランドの個性を生かしながら共に歩む感覚、統合から結合へというイメージをメンバーと共有できたのかなと思います」

船団という意識を持つことで、それぞれのブランドは、あらためてブランドの個性と向き合う機会になりました。その結果再認識できたのは、「変わること」の重要性です。

横川 「時代が変われば、ブランドの役割も変わります。業務の一つひとつが大幅に変わることはなくとも、私たちはお客様が何を求めているのか、常に時代の変化を感じてブランドの存在意義やミッションを振り返り、進化させる必要があるでしょう。
私たちの事業を成功させる最大のヒントは、『これでいい、よりこれがいい』という言葉に集約されています。やれることをやるのではなく、やりたいことをどうしたらできるかを考える。それは、常に挑戦し、進化を続ける姿勢そのものでもあります」

安定にとらわれず挑戦と進化を続け、持続性のある強い事業を築く

▲2019 WELCOME CAMP

時代の変化に応じることは、時に既存のルールを覆す挑戦が必要になることがあります。

横川 「たとえば、食品の衛生基準は時代に応じて変化します。しかし、それが必ずしもお客様が常に求めるものとは限りません。半歩先の提案をするためには、既成概念にとらわれてはいけないと考えています。時には既存のルールを変えるようなチャレンジが必要です。
ウェルカムグループでは、実例がないことをリスキーだと捉える風習はできる限りなくしていきたいです。そもそも実例がないことをやろうと言っている企業ですから」

挑戦したいメンバーがいるならば、その挑戦を応援する企業でありたい。横川のその願いは、企業の規模が大きくなっても変わりません。

横川 「過去にはまったく興味がありません。新しい挑戦をするわけですから、うまくいかないのが当たり前です。前年比でのマイナスにそれほどの意味を感じないんです。
もちろん、昨年に比べて自分が成長したかどうかを振り返る必要はあります。ただ、飛躍する前の準備運動に対して、ストップはかけたくないんです。私の最大のミッションは、そういった挑戦を止める圧力をつぶすことです(笑)」

2018年にオープンしたチーズ工房を併設したピッツァ・ダイニング『グッドチーズグッドピザ』は、オープン景気を過ぎた2019年現在も多くのお客様で盛況を博し、2020年の春には酒づくりの事業が新たにスタートする予定と、新しい事業が生まれ、育つ土壌ができつつあります。横川には新規事業を立ち上げる際に強く意識することがあります。

横川 「何をやるかより、誰がやるかのほうが重要です。企業でよくありがちなケースは、パートナーやプロジェクトだけが先行して、担当者を後からアサインすることです。
この方法だと、当然当事者の熱量が生まれにくくなります。いわばオーガニックなプロジェクトにはできません。自分がやりたいことがベースにあって、それを応援する人がいる。『グッドチーズグッドピザ』にしてもお酒の事業にしても、グループとしてやろうとは考えていませんでした。メンバーが生産者の方々と関わる中で拡がった感性の共鳴から生まれたプロジェクトです。グループとしてそれに共鳴し、事業化する、これがベストですよね」

中長期的に安定した経営を実現するためには、時代の変化に応じた新しい事業をつくるだけではなく、既存事業のアップデートも必要です。ウェルカムグループは2016年に『VISION2021』というプロジェクトを立ち上げました。多くの企業が大きな転機となる2020年に向けて経営計画を模索する中、ウェルカムグループはその先を見据えています。

横川 「『 VISION2021』は、未来の事業の柱となる、これまでの経験を生かした新しい挑戦を 4つにまとめてつくったものです。ただ、 2021年が間近に迫った今、あらためて思うのは既存事業の重要性です。
目まぐるしく変わる時代に左右されて新規事業にどうしても目がいってしまいますが、既存事業の経験やノウハウ、パートナーとの関係性があるからこそ、新規事業に挑戦できることを忘れてはいけません。今後どのように時代の変化に合わせて既存事業をアップデートしていくかも、非常にチャレンジングだと感じています」

ウェルカムグループは、一人ひとりの感性を刺激するきっかけをつくり、その感性が多くの共鳴を生み出せる場を提供しています。果てなき海を旅する船団の一員として、挑戦する人がこのストーリーに共鳴することを願っています。

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