「いつ解雇されてもおかしくない」環境で培った、逆境に負けない忍耐力と精神力

「代表取締役社長」という私の肩書を見て、さぞ苦労のない人生を歩んできたのだろうと思われるかもしれません。しかし振り返ってみれば、自ら声高に言うものではないとは思いますが、波瀾万丈なキャリアであったと思います。

私は東京大学法学部の出身です。ただ、いざ入学したのはいいものの、法律関係の授業がどうしても好きになれず、一刻も早く社会人になりたいと思っていました。

大学院に進む人も多い学部でしたが、卒業後に就職することを選んだ私は、株式会社日本長期信用銀行(2019年現在:株式会社新生銀行)に入行。そこで営業の仕事を経験し、お客様や上司、同僚といったさまざまな人たちに叱咤激励を受けながら、社会人の基礎を身に付けました。

もともと、グローバルな仕事に強みを持ち、留学制度があるという部分に魅力を感じ入社を決めていました。しかし私は3年目から役所に出向となり、留学することができなかったんです。そうして役所での仕事を終えて戻ってきたころには、会社の経営はかなり傾いてしまっており、最終的には経営破綻し、そのまま国有化されてしまいました。平成不況を象徴する経営破綻のひとつに、まんまと当たってしまったわけです。

そうして突然野に放り出されてしまった私は、銀行時代に良くしてもらっていた上司に助けてもらい、長銀ウォーバーグ証券会社(現:UBS証券株式会社)に入社しました。外資系企業ですから、私が配属になったチームは、私を除いて全員が外国人。文化も違えば、言葉も違う、そんな環境の中で仕事をするのは非常に大変で、トイレで何回も吐きそうになったことを覚えています。

経験やスキルも未熟な私でしたから、「いつ解雇されてもおかしくない」と思い、定期券すら買うことができず毎日切符を買って通勤していたほどです。とはいえ、ここで頑張るしか道はなく、とにかくがむしゃらに努力しましたね。今思えば、忍耐力や逆境に負けない心はこのときの経験によって鍛えられたのではないかと思います。

しかし、仕事そのものは単純作業が多く、このままではいずれ能力的にも頭打ちになると思い、転職を決意。そこで入社したのが、三菱証券株式会社(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)でした。ただ、これも順風満帆な転職とはいかず、たくさんの苦労を経験することになります。

「いよいよ肉体的にも精神的にも限界かもしれない……」それほど追い詰められていたときに、日本長期信用銀行時代の上司から誘いがあり、マネックスグループ株式会社に入社することに。ここから、私のキャリアは大きく変わっていくことになります。

管理部門を経験して感じた「現場目線」の大切さ

当時のマネックスは設立から5、6年が経ったころで、ちょうど新卒採用を始めたタイミングでもありました。そこで私は、新卒一期生と一緒に、会社の事業をより拡大するための新しいチャレンジをいろいろとします。

成長期の会社で働くのは大変なことも多いのですが、直接的にお客様と関われる仕事はやりがいも大きく、何より仲間たちの前向きな姿勢に後押しされて、とても充実した時間を過ごすことができました。それまではなかなかお客様の顔も見えず、目的意識を芽生えさせる暇すらない毎日でしたから、この変化は大きな喜びでした。

その後、縁あって新しいIPOの形を目指すマネックス・ハンブレクト株式会社の代表取締役に就任。他にもマネックス証券のコンタクトセンター部門の担当役員、マーケティング部門の営業本部長など、さまざまな役割や部署を経験してきました。いろいろな仕事の現場を知る機会となったこの経験は、自分にとってとても価値のある体験だった思います。

マネックスグループのCFOに就任してからも、ここで培った「現場目線」というものをすごく大切にしてきました。会社における管理系の仕事というのは、どうしても現場との距離が離れがちですし、お互いがお互いに線引きをしてしまう傾向があります。

実際、経理や財務の人が使う言葉って難しいですよね。私も初めて管理側に回ったときは苦労しました。だからこそ、こういう状況を変えたいという気持ちも強くなったのです。

そのため、ステークホルダーに対する社外向けのPR活動だけでなく、社員向けの決算説明会なども積極的に開催するなど、とにかくお互いの距離を詰めるための取り組みに力を入れました。

管理部門と現場、双方向のコミュニケーションがあってこそ、事業の成功があるのは間違いありませんし、普段の仕事が見えにくい管理部門側から歩み寄るのも当然といえば当然ですよね。

もちろん、負担も大きくはなりますが、それだけ他の部署の仕事がやりやすくもなりますから、積極的に取り組んできたつもりです。

また、マネックスグループは2019年に創業20周年を迎え、新しいことにどんどんチャレンジしていこうとしていたタイミングでもあり、管理部門としてそれをサポートするためにも「攻めの財務」を心がけました。

「まだ勝ち負けの決まっていない」仮想通貨業界の大いなる可能性

こうした紆余曲折を経て、2019年11月に、コインチェックの代表取締役社長執行役員に就任しました。思えば、私が銀行に入った当初は、世界で最先端の事業を行うところといえば銀行でしたし、その後は証券がどんどん力をつけて新しいことを次々に展開していました。

そして今度は仮想通貨がその存在感を大きく増してきています。もしかすると私の人生は、常に最先端を歩んでいくようになっているのかもしれませんね。

仮想通貨の世界は、まだまだ制度としても固まっていない部分が多く、未知数なところも少なくありません。しかし、この未知数の部分がすべて伸びしろであることに間違いはなく、今後ますます大きく成長していくことは間違いないでしょう。

そのような状況の中で、コインチェックは国内でも有数の規模と実績を持ち、基礎的な要素はすべてそろっているといっても過言ではありません。これまで培ってきたユーザー基盤やサービス運営のノウハウ、それを支えている優れた人財です。

コインチェックには、仮想通貨領域に知見の深いメンバーだけでなく、さまざまなスキルやバックグラウンドを持つメンバーがたくさん集まっています。

これらのアセットをどう活用していくかが、今後のコインチェックの成長のキーになるはずです。

今はまだ群雄割拠の時代であり、どこが勝ちどこが負けるかが決まっていない仮想通貨の世界。銀行や証券といったすでに市場が完成している分野で、今から勝利をつかむのは並たいていのことではありませんが、仮想通貨であれば誰しもに勝利の可能性があり、行動することによって自らポジションつくっていくことができます。

ありがたいことに、私たちにはコインチェックのアセットだけでなく、マネックスとしてのアセットもありますから、グループのアセットも積極的に使っていきたいですね。

たとえば、同じマネックスグループの一員であるマネックス証券の顧客層と、コインチェックの顧客層は大きく異なります。それらをうまくクロスさせたり、マネックス証券の金融業界におけるマーケティングのノウハウをコインチェックにシェアしたり、可能性は無限に広がっています。

最前線で働いてくれている社員一人ひとりの力に会社の未来がある

私自身、仮想通貨そのものに関してはまだまだ勉強が必要だと考えています。また、コインチェックのユーザーは30代がボリュームゾーンであり、どちらかといえば現場の社員の感覚の方がユーザーに近いと考えています。

なので、最前線で働いてくれている社員一人ひとりの力にこそ、会社の未来があると思っています。だからこそ、社員に溶け込みながらお互いのことを深く知り、積極的でオープンなコミュニケーションをしていきたいですね。

とにかく変化の早い業界ですから、私を含めた経営陣がスピード感を持って舵を切っていきます。そこにしっかりと当事者意識を持ち、自らの力で船を動かそうという気持ちを持った社員一人ひとりのパワーが必要です。

せっかく優秀な人財が集まっているので、私が「右と言えば右」というような経営スタイルよりも、社員の考えや意見をしっかりと聞いて進めていく方が、より大きなインパクトを世の中に与えられると思います。

これから先のダイナミックな動きを、みんなで一緒にしていきたいと思います。