「 7年間船に乗ってきたことが一番の強み」

▲三等航海士時代の中堀(右)

2018年から陸上勤務に異動となり、現在の部署であるエネルギー業務グループに着任しました。入社から約7年間の海上勤務を経て、現在初めての陸上勤務をしています。

私が所属するチームの主な業務内容のひとつとして、毎週始めにタンカー系の業界ニュースに目を通し、情報収集をしています。その中で重要かつ必要な最新情報を選んで、英文記事を日本語へ翻訳・要約したのち、社内の関係先や関係会社に提供する役割を担っているんです。

また、会社が運航船などに展開するCalm Seaという刊行物の中で、ニアミス事例(各船の乗組員が危ないと感じたこと)を毎月紹介し、事故予防につなげようという現場向けの記事の執筆を担当しています。

最近起きた事故をトピックに、その背景にはこんな危険な行動や状態がありましたっていうニアミスデータを自分なりに分析。そして船の乗組員の安全意識を高めるために、写真や絵が入ったわかりやすい説明記事を作成しています。いずれにせよ、だいたいは英語と戦っていますね。

「危険物積載船」とカテゴライズされる液体貨物船の世界では、お客様はどの船会社に任せれば安全に貨物を運んでくれるかを最重要視します。

そのためタンカー業界では、油社の検査官が実際に船に足を運ばれて、船上で実施されるSIRE(Ship Inspection Report Programme)という検査があるんです。検査リストには600個以上の項目があって、それを1個1個現場でチェックしながら「これOK、これOK」っていうのをやっています。

それは船が安全な状態に整備されているかとか、記録類がちゃんとされているかとか、はたまた最新のトレンドでは、乗組員の資質、コンピテンシーっていうのを見られています。

他に挙げられる最近の大きな課題は、乗組員の能力や技術だけじゃなくて人間の疲労に関する点です。船上でもWi-Fiが完備されLINEやFacebookができるようになったことで、長期間家族と離れて過ごすストレスから、休憩時間はずっと携帯をいじったりする乗組員もいます。中には寝る間も惜しんで携帯ゲームをする乗組員も。そうすると睡眠をとって休むべきはずの休憩時間なのに、全然休んでいないことになってしまうんです。

安全管理と一口に言っても、これからはもっと人の内面にフォーカスするように変えていく必要があると考えており、それを今からどうしようかって考えているところですね。

「その水舐めてみろ」と言われて気づいた若手時代。経験値の大切さを学んだ

▲LPG船に一緒に乗っていた仲間たちと(後列右から7番目が中堀)

私は大学に入ってから船乗りっていう仕事の存在を知ったんです。最初に興味を持ったのは、いい給料、何カ月もの長い休暇、制服もかっこいい、みたいなポイントでした。しかし最終的に決め手になったのは、輸入の99.7%を船に頼る日本で船乗りほど重要な仕事はないなと思ったことです。言い方を変えると船乗りの仕事は今後なくならないだろうと。船に乗る仕事をしていれば生きていけるだろうと思っていました(笑)。

実際に船に乗って一番驚いたことは、航海士の幅広い仕事内容です。学生時代は、航海士というのは船を単純に動かすだけだと思っていたんですよ。しかし実際は違いました。たとえば自分自身で、船体の錆落とし作業をしたり、船内の消火器の薬剤を交換したり、ライトがつかなくなった原因を電気配線の図面を見て探したり、薬や医療品の管理をしたり、ときには乗組員の悩み相談を受けてメンタルをケアしてあげたり。

あとは意外と書類仕事も多い。陸上には当たり前にある病院や消防署などの施設に頼れないため、人間の生活に必要なすべての仕事を乗組員が担っています。もちろん船内では担当者が決まっていますが、サバイバルやキャンプ好きで、全部自分でやらなきゃいけない生活を楽しめる人には向いてるのかなと思います。

若いころの印象に残っている仕事として、こういう経験があります。三等航海士として自分の担当機器をメンテナンスするために、船内を歩いていたときのことです。海水や燃料などの配管がたくさん通っているパイプスペースの床に、水たまりを発見しました。私はそのとき、「漏れていたらまずいな、報告しよう」と思って上司の一等航海士にトランシーバーでここ漏れてますって連絡したんです。 「これ、おかしくないですか?」と。

そうすると「その水を舐めて確認してみろ」とアドバイスをもらいました。少しちゅうちょしましたが、配管からの漏れがあると今後大ごとになるので、舐めてみました。そしたら何も味がしないんですよ 。実はその水たまりは、空気が結露しただけのただの真水だったんですね。その経験から冷静に対処する心がけと、五感を使う大切さというのを学びました。

船の仕事は、頭の良さだけではなく自らの経験の積み重ねが一番大切なんです。ベテラン船乗りになると船内を歩いているだけでいろんなことがわかります。モーターの音おかしいなとか、ここが湿っていたらおかしいとか。過去にこんな事故が起きたことから、この状態をこのまま放っておいたらこんな事故が起こる、とか。経験則で異常がわかるようになるんですよ。

「船乗りとして成長したな」と感じた瞬間。ポイントは「五感」にあり

▲これまで計11隻の船に乗ってきた中堀。写真はVLCCの船橋(操縦室)からの眺め

自分自身が成長したなと思ったのは、二等航海士としてVLCC(原油タンカー)に乗船したときです。ある日原油を送油するポンプを起動したとき、配管を流れるはずの原油がまったく流れてこないことがありました。原油タンカーとしては一大事です。

そこで他の航海士や機関士と一緒に、ポンプが設置してある「ポンプルーム」というスペースを見に行くことになりました。そこで機関士たちがポンプの不具合をチェックする一方、私は配管を手で触って確かめていくことにしたんです。

そうすると配管のとあるひとつのバルブから先が、急に冷たくなっているのを発見しました。それはそのバルブから先には原油が流れていないことを意味します。原油は通常お風呂のお湯ぐらいの温度なので、流れてくると配管がじんわり温かくなるんです。

すなわち、原油が流れない原因はポンプではなくてバルブの不具合だったんです。

ただ結露しただけの水たまりで焦りまくっていた若手時代から数年、船上で誰よりも先にトラブルの原因を見つけることができるようになったんだなと、自らの成長を感じた瞬間です。

船で培った「現場と五感を大切にする」という経験は、現在の陸上業務にも生きています。会社として安全運航を推進する上で、やっぱり一番大切なのは現場です。船の事故を防ぐために、船での経験を生かした発信をしていく。それは現場を知っている人間が引っ張っていかなくちゃいけないと思っています。

現在の私の上司である大石 晋也チーム長は、昔一緒に船に乗っていたころ、自分で背中を見せるタイプの航海士でした。当時の大石さんは一等航海士で私は二等航海士。大石さんは一等航海士なので管理職としてのさまざまな仕事があり忙しいにも関わらず、日中は自らツナギ作業服を着て、汗だくになりながら率先して錆打ち作業や塗装作業をしていました。その大石さんの姿を見た乗組員はみんなやる気を出し、その船は安全意識も含めてとても良い仕事ができる雰囲気になったんです。

船の世界が現場仕事である以上、それを指揮する立場として、率先して現場仕事の最前線に立つことが何よりも乗組員のモチベーションアップには効果的なんですね。

これからは大石さんのあとを継ぎ、私が自分の背中をみんなに見せていく番だなと思っています。

日本郵船の海技者として、さらに経験を重ねていきたい

▲最近の趣味は社交ダンスだという中堀。丸の内の本店ビル前での一枚

今後私たち海技者に求められている役割は、「今以上に船を安全な乗り物、かつ人類が活動を長く続けられるよう環境に優しい輸送手段にするべく、現場での経験を生かし取り組むこと」だと思っています。それは船に乗ってきたわれわれこそが担える役割でもあります。

私は陸上勤務のこの部署で仕事を経験できたことで、あらためて日本郵船は極東での存在感のある会社であることに気づきました。日本郵船は、石油業界が標準を策定するときに、他の有名な会社達と肩を並べて意見することができ、ルールをつくる側に回れる数少ない船会社です。

日本郵船の何が買われているのかというと、私は「現場力」だと思っています。かつて日本郵船で働いていた優秀な海技者たちが、現場の経験をしっかりとビジネスに生かしてきた歴史がわれわれの強みなんです。現在働いてる部署でも、営業職の海技者に対する信頼を実感することは多々ありますね。

その海技者の中で、現在の上司である藤野 晴久グループ長代理は、日本郵船の代表として世界の最大手石油会社(オイルメジャー)と関係を構築し、直接話ができる唯一の存在です。業界の最新動向に関する質問や、お客様であるオイルメジャーとのトラブルが発生したときの対応に関する問合せなど、何かあれば他部署から助けを求められる、会社にいなくてはならない存在なんです。そしてそれは原油タンカーに船長として乗船し、現場を数多く経験してこられてきたからこそできる仕事でもあります。

私は入社して9年目ですが、諸先輩に比べてまだまだ現場経験が足りないと実感しています。今後の目標として、これから貨物を扱う一等航海士として海上勤務の現場経験を重ねていき、ゆくゆくは「あのことならあの人に聞けばいい」と頼られるような船長になりたいという想いがあります。いつかは藤野さんのように、会社内で唯一無二といわれるような存在になりたいです。

そのためにまずは再び海上の現場に戻り、一つひとつ五感を大事にしながら経験していくこと。これからもこれまで通り、一歩一歩の積み重ねですね。