働き方改革=仕事を増やす。全員が“後ろ向き”に臨んだスタートライン

▲子ども政策課のメンバー(後列右から2番目が溝口直幸)

就任以来、東市長が目標として掲げる「日本一前向きな市役所」。

その実現に向けた取り組みとして、全国の基礎自治体に先駆け、始動したのが職員の働き方改革です。具体策として「管理職を対象とした指導者養成研修」、「モデル課選出による実践」のふたつが示されました。

溝口 「子ども政策課としてはモデル課に選出されないよう、上司に予防線を張っていました。業務量、残業がともに多い部署だったので、これ以上 “仕事 ”を増やされてはパンクしてしまうと思ったからです。
しかしその後、副市長から呼び出され『困難だと思われる課だからこそ、ぜひ挑戦してほしい』と言われまして……」

子ども政策課の主な業務は、待機児童対策・保育所等の入所関係・保育料の徴収・公立保育施設の運営支援・民間保育施設への助成・保育事業の認可など。一部を挙げてみても、多岐にわたる領域をカバーしているのは一目瞭然です。

加えて、昨今の少子化対策や自治体間の子育て世代獲得競争などの影響で、度々制度改正や新規事業が企画・実施されているのに、人員は補充されないまま。保育士や栄養士などの専門職が在籍していることも相まって、一人ひとりが多くの業務を抱えざるを得ない「属人化」が進んでいました。

溝口 「窓口や電話応対など突発的業務もあってスケジューリングがむずかしく、休暇の取得もままならない……。そのような状況下におかれた職員たちは常に疲弊し、モチベーションも低下気味でした。
そんな折、トップダウンとはいえモデル課になることを了承してしまって。そのことを伝えたときのみんなの落胆ぶりと言ったらなかったですね」

一方で溝口は、課の状況改善やメンバーの働き方改革の必要性も感じていました。

溝口 「メンバーも、そして私自身も『このままの状態ではよくない』という危機感はあったんです。ですからこの機会に本気で働き方改革に取り組んでみて、それでも負担軽減が難しいようであれば、あらためて人事に人員拡充をお願いしてみようと。それが人手不足の証しにもなるとにらんで」

覚悟を決めた溝口は、すぐにメンバーへの説得を始めました。

開始から3週間は失敗の連続。それでも“やらされた感”だけは拭いたかった

▲「集中タイム」のときは、デスクにカードを立てる

働き方改革のモデル課に選出された子ども政策課。本格的に取り組むにあたって溝口は、一人ひとりに実施への納得感を持ってもらうことが肝要だと考え、「3つの取り決め」を提示します。

ひとつ目は「無理なことや負担なことはしない」。無理や負担を感じてしまうと“取り組み”ではなく“仕事”になってしまうというのがその理由です。

ふたつ目は「まずは他人のためではなく自分のためだと思って考える」。自分の負担軽減を実感することが重要だと考えました。

最後は「そのうえで、チームのためにできることがあれば考える」。自分が負担軽減できたら、みんなに目を向けてもらいたいという希望を込めました。

溝口 「もともとトップダウンで始まったことなので、メンバーが “やらされた感 ”を持ってしまうことは避けたかったんです。そこで『自分が一員として取り組むとしたときにどうしたらしんどくならないか』『どういう声かけをしたら前向きになれるか』という視点で策定し、この 3つを示しました」

そんな溝口の想いがメンバーへと伝わった2017年10月、子ども政策課・8名の働き方改革が本格始動。最初に導入を試みたのは、外部コンサルティング企業から提案された「3つの取り組み」でした。しかし、3週間続けてみると、改善どころか課題が山積する事態となります。

ひとつ目の「定時の45分間でカエル会議」。これは、働き方に関する課題を抽出し、解決に向けて意見を出し合うことを目的に行われましたが、負のループに陥ります。「属人化の解消」をテーマに改善案を話し合ったものの「人員不足」「業務量が多い」など後ろ向きな意見が噴出したのです。

ふたつ目の「1日の予定と結果を全員に送る朝夜メールの実施」では、「作業量が増える」「メールボックスがすぐにいっぱいになる」との声が多発。タスク管理はおろか、メンバーのモチベーションが低下してしまいました。

そして課自らで決定した3つ目の「窓口業務も電話応対も一切やらない集中タイムの実施」では、周りに気を遣い、申告し利用する人はほとんどいませんでした。

始めの一歩でつまずいてしまったように見えた3つの取り組み。しかし、改善案を出し合ったところ、予想よりも多くのアイデアが飛び出しました。

付箋会議で課題を可視化。「課のもったいないところ」の解消を目指す

▲カエル会議の様子

働き方改革を前進させるため、まず改善したのは「カエル会議」です。付箋にできるだけ多く意見を書き、模造紙に貼りながら一人ひとりが発表する「付箋会議」にしたのです。

すると「全員がフラットに意見を言える」「出た意見のグループ分けができる」などのメリットが顕在化し、それまで負のループに陥りがちだった「カエル会議」は“アイデアを具体策にし、実践へとつなげる”重要なプロセスへと変貌しました。

たとえば、かねてから課の課題となっていた「属人化の解消」。視点を変え、課のいいところ・もったいないところを付箋で挙げ、見比べてみることに。

課のいいところは「チームワークがある」「みんな責任感がある」「意見を言いやすく相談しやすい」「仲がいい」など。もったいないところは「業務に隔たりがある」「担当者しかその業務がわからない」「勉強する機会や時間が持てない」「情報共有ができていない」「お互いに遠慮し合っている」などといった意見が出ました。

こうして可視化することで「どんなに小さいことでもいいから、“もったいないところ”を解消していこう」という方向性や具体策が固まったのです。

具体策は3つ。

昨日の報告と今日の業務内容を朝礼で共有し、「情報共有の徹底を行う」こと。エクセル表でその日の忙しさを色で示す「忙しさ管理表」や「朝夜メール(※任意)」で自身の忙しさを発信し「協力し合い・遠慮しない」。そして、「カエル会議」をさらに活用することで「意見を出し合う」こと。

ようやく動き始めたかのように見えた改革。しかしその一方で開始から3カ月が経過しても「何かが変わった」という実感は誰ひとりとして持てませんでした。

溝口 「正直言ってかなり焦りましたね。でもどうしても、前進していることをメンバーと共有したかったので、各取り組みについて 10点満点の点数で表してもらい、感想を述べてもらう場を設けました。すると、すべてが平均 6点以上の高得点で。しかも『周りを気にしながら業務を進めるようになった』『働き方に関する意識が変わってきた』など前向きな意見が出てきたんです」

その後も実践と検証を粘り強く続け、半年が経過した頃、ようやく各メンバーが「属人化の解消が実現するかもしれない」という手応えを感じ始めました。

働き方改革に、特効薬はない

▲働き方改革に取り組んだ振り返り

3カ月から半年までの間で新たに始めた取り組みは残業の内容と目標時間を事前に申請する「残業業務内容事前申告制」とプライベートも含めた今の自分を発信する「マインドマップ・今の私は〇〇系」のふたつ。

特に画期的なものを導入したわけではありません。ではなぜこのタイミングから、メンバーの気持ちが前向きになったのでしょうか。

溝口 「自由な意見を交わしながら、みんなで小さな成功体験と改善を繰り返してきた、その成果ではないでしょうか。いうならば『緩やかな坂道を休むことなく登り続け、ふと振り返ったら改革が進んでいた』というイメージですね」

開始から8カ月後。カエル会議で各メンバーの現状を聞いたところ「最近忙しくない」「忙しい人がいたら手伝います」の声が挙がり、溝口はこのとき初めて、意識だけでない本当の改革、属人化の解消が実現できたと感じました。

そして1年半後には、成果が数値にも表れました。前年に比べ、新規事業など約10の業務が増えていたにもかかわらず、残業が約15.5%も削減されていたのです。

溝口 「実はこの改革では『残業の削減』のような数値目標は一切掲げませんでした。たとえ前進していても数値目標が達成されなければ、メンバーのモチベーションは低下し、取り組みそのものが頓挫してしまう可能性があるからです。このことは、東市長も当初から提言していたことでした」

カエル会議を定期開催することで「関係の質」を高め、意識が変わり(「思考の質」)、メンバーに主体性が生じ(「行動の質」)、残業の削減という結果(「結果の質」)につながった──これは、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した、『組織の成功循環モデル』のグッドサイクルに当てはまります。

後付けではありつつも、このサイクルがつくれたのも勝因のひとつであると溝口は分析します。

溝口 「振り返ってみて思うのは『働き方改革に特効薬などはない』ということ。ほかの企業や自治体の成功事例をそのまま取り入れるだけでは何も変わりません。最も大切なのはチームで話し合って決めること、検証を繰り返しながら取り組みを継続していくこと。それに尽きますね」

2019年4月より人事室課長に就任した溝口。自分が抜けても取り組みが続けられている子ども政策課の現状が、非常にうれしいと笑顔で話します。四條畷市役所全体の働き方改革を目指して、彼は今日も全力を注ぎます。