分院展開をきっかけに、権限移譲する意義を知った

▲2019年現在の理事長・梅岡比俊

梅岡が開業医としての人生をスタートさせたのは、2008年のこと。研修医、勤務医時代に経験した「医師の働き方」に対する違和感が、自身の開業を決意させたといいます。

梅岡 「医師本来の仕事は診察。ですが、実際には生命保険申請書類や紹介状、診断書の作成など、事務作業もかなり多いんです。加えて、たとえば大学病院では “教授や上司をひたすら待ち続ける時間 ”が発生するなど、各病院の体質によって業務内容は大きく左右されます。
自分自身を磨き、楽しむための時間など到底確保することはできず、病院側に業務効率化へ向けた提案をしても受け入れてもらえない。まさに袋小路から抜け出せない状態でした」

もっと自由な働き方がしたい。その一心で兵庫県西宮市に開業したのが「梅岡耳鼻咽喉科クリニック」でした。

スタート時は、院長がすべて事前準備をし、スタッフに仕事を「与える」というトップダウン体制で運営。診療や集患増患対策のみならず、スタッフ採用に至るまで、すべて梅岡の判断で行っていました。勤務医時代に比べ業務量は多少軽減したものの、理想の働き方とは程遠いものでした。

しかし開業から3年後、梅岡に働き方改革における転機が訪れます。他のエリアに分院を展開することとなったのです。

梅岡 「どう考えても、自分ひとりでふたつのクリニックを運営することは難しい。そこで初めて『人に任せる』ことに挑戦してみました。すると、私よりも他のスタッフの方が断然成果を出せる業務があり、それによってオペレーションを改善することができたんです。
しかも、仕事を任されたスタッフは自分の得意分野を見つけて、まるで水を得た魚のように生き生きとしだして。このことをきっかけに『お互いのためにも、どんどん権限移譲するべきだ』という考えにガラッと変えることができたんですよね」

当時、梅岡は医師である以上に「経営者としての在り方」についても考えるようになり、セミナーや書籍から積極的に学びを得ていました。「スタッフと共に理念を追求しながら、働き方を変革する」という梅華会の方向性は、このころに固まったのです。

トップダウン型からスタッフ自走型の組織へ変革、医師は本業に集中

▲権限委譲したことで、会社の研修もスタッフがすべて実施

働き方改革に本格的に乗り出すにあたり、梅岡はあらためてクリニックの現状を見つめることに。すると、主に4つの課題が浮かび上がりました。

1つ目は、他職種(看護師・スタッフなどのコメディカル職種)同士の業務分担をどうするか。2つ目は医師でなければできない仕事“以外”の雑務をどう分担するか。3つ目は待ち時間を解消し、多くの患者さんを診察するための集患対策をどうすべきか。4つ目は、スタッフ採用、育成、スタッフ間の良好な人間関係を築くためにはどうしたら良いか。

梅岡自身はまず、それまでのトップダウン型から「スタッフが各自で考え、積極的に運営に関わる」体制を目指すことにしました。その上で、時間をかけて改善を続けながら、4つの取り組みを実践していきます。

1つ目は「しくみ化する」こと。医療スタッフが主体性を持って考えながら、ルーティンワークをしくみ化。マニュアルの作成やヒヤリハットの蓄積・改善により、業務を属人化せず、誰が行っても同じ結果が出るようにしました。

2つ目は「あり方についてのスタッフ教育を徹底する」。共通認識のインフラをつくることが、組織が潤滑にまわる近道になるという考えのもと、繰り返し理念を伝え、共有。理念研修やテストのほか、年1回の「理事長の想いを伝える会」開催を決めました。

3つ目は「権限移譲を行う」。医師にしかできないこと(診療)以外は、権限移譲する。マーケティングや新規開拓、人事採用などはマネージャーに一任。分院展開についても幹部やスタッフにすべてを任せることにしました。

4つ目は「時間管理の徹底」。理事長に対して秘書を雇い、業務管理を一任させたほか、「チャットや電子カルテなどITを積極的に活用し情報共有する」、「スタッフの残業時間を社内に公示し、結果を測定する」など全員の時間管理についても徹底したのです。

梅岡 「『決断』『優先事項』『委任』をキーポイントに改革を進めてきましたが、すぐには変わらず、少しずつ変化していったという感じでした。私が 1番苦労したのは、時間管理。経営者でありつつプレイヤーでいたいという気持ちから、ついスケジュールを詰め込みすぎる傾向にある上、女性スタッフとのコミュニケーションが苦手で、意思をうまく伝えることができなかったんです」

女性スタッフが「ずっと働ける職場」を目指し、制度を拡充

▲理事長が想いを伝える会の様子

4つの取り組み以外に注力してきたのが、スタッフの大半を占める「女性」の働き方改革」。しかし、着手する以前に、梅岡が頭を悩ませていたのが「女性スタッフとの日常コミュニケーション」でした。

梅岡 「私はいわゆる体育会系育ち。社会人になっても同様に “縦の関係性 ”で仕事をこなしてきました。しかし、開業し経営者となると、多様性ある部下を相手に通用しなくなって。加えて私は言語化が下手なようで、詳しく説明せずに『わかるよね?』とすぐに念押ししてしまう。とくに女性スタッフとは意思疎通が図れず、非常に苦労してきましたね」

多くの失敗を経て、梅岡が得た教訓は「女性スタッフに相談されたら『即断、即決する』のではなく、『まず話を聞く』」。それを心がけることで、目に見えて関係性が改善され、次第に業務もスムーズに運ぶようになりました。

並行して梅岡は、女性スタッフの声をもとにした制度拡充に乗り出します。

実施したのは、マーケティングや広報などの間接部門を設置し、9:00~17:00勤務の職種をつくること、また、福利厚生の一環として、乳がん、子宮がん検診の補助を出すなどです。重視したのは『女性が長く働ける環境づくり』。

また、2019年4月には、兵庫県西宮市、尼崎市にて3カ所の企業主導型保育園を開園。

スタッフのみならず、地域で“生き生きと働くお母さん”をサポートしたいという想いから運営をスタートさせました。

3年にわたり秘書を務める大西佐知は、梅岡についてこう話します。

大西 「たとえば、外部研修に足を運んだ際、梅岡は『新しいことを学べて、良かった』という自己満足に終わることなく、『学んだことをどう梅華会に生かせるか』を考え、行動に移しています。その発想力とスピード感には驚かされるばかりですが、この行動力があるからこそ、働き方改革が実現できたのだと納得しています。
そして、何よりもすばらしいのが、トップである梅岡本人が、いつも楽しみながら働いていること。サポートしている私も、常にポジティブな気持ちで仕事と向き合えることができるんです」

日本全国のクリニックに患者・スタッフ・医師「三方良し」の世界を広げたい

▲現場をこえて、スタッフがM.A.Fで活躍

医療の現場において困難とされる働き方改革を成し遂げ、自身が渇望していた「自由な働き方」、新しいライフスタイルを手に入れることができた梅岡。

この取り組みを当法人内で留めることなく、他の開業医にも広めていきたいという想いから、2016年に「開業医コミュニティM.A.F(Medical Activation Federation:医療活性化連盟)」を設立しました。

梅岡 「梅華会は『医療を通じて日本の未来を明るくする』というミッションを掲げていますが、私たちの力だけでは、それが成し遂げられるとは決して思っていません。そこで、思いついたのが開業医のコミュニティ立ち上げです。同じ想いを持つ皆さんと共に学びながら、梅華会のメソッドを全国のクリニックに広げていく。これこそ、ミッション実現への道につながると考えたのです」

「開業医コミュニティM.A.F」には2019年9月現在、56院、70名が参加。セミナーやメールマガジンなどを通じて、ビジョン策定、スタッフ採用・教育、税金対策など、多岐にわたる医療経営のノウハウを提供しています。

梅岡 「患者さん・医師・スタッフが『三方良し』となる世界をつくり上げるためにも、医師が経営者としての力量を磨くことは必要不可欠です。マネジメントによっては、1+1を 3や 4の力にすることも可能なんです。
11年前、数名のスタッフで始めた私たちのクリニックは、今や兵庫県・東京都に 8院を展開し、約 100名のスタッフを抱えるまでに成長することができました。それもリーダーである私自身が積極的に経営を学び、実践と改善を続けてきたからにほかなりません」

講演や執筆活動、セミナー参加など活動の幅を大きく広げ、プライベートにおいても国内外のフルマラソンやトライアスロン、アイアンマンレースに挑戦するまでになった梅岡。長時間労働を自ら課し、運動もせず不健康だった開業当時を思うと夢のようだと振り返ります。

梅岡 「ひとりでも多くの医師が『忙しくしていなきゃいけない』という思い込みを捨て、部下を信じて権限移譲してほしい。院長が毎日レジ締めをするなんてナンセンスです。仕事を任せ、部下の成長機会を提供しながら、自身は本業やプライベートの充実を図る。それが、みんな笑顔で働ける職場づくり、ひいてはより良い医療提供にもつながります」

梅華会が目指すのは「日本一のモデルクリニック」。経営や働き方を見直しながら、関わる人すべてを幸せにする。日本の未来を明るくする──これからも梅岡のあくなき挑戦は続きます。